この空を羽ばたく鳥のように。
驚いて喜代美を見つめる。
まさか彼の口から、そんな言葉が出るなんて。
「……大きく出たわね」
ああ。嬉しいくせに、素直に喜びを表せない自分が憎い。
喜代美も照れたように笑った。
「そうですね。自分でも驚きました。
……たしかに私は若輩者でありますから、今はそんな力はございません。
ですが大人になり、家督を継いだ後もしっかりと家を守って、勤めも立派にこなせるようなそんな一人前の男になったら。いつかあなたを連れて、海へ行ってみたい」
「喜代美……」
………バカね。女は現実を見るものよ?
夢を追い求める男とは、訳が違うんだから。
そんなことできっこない。
誰だってそう思うわ?
けれどもとなりで何の懸念もなく笑う喜代美の笑顔を見ていたら、
そんなバカげた夢を見るのもいいかなって思えてくるから不思議だ。
何より『一緒に』ってところが喜代美らしい。
自分だけが見て確かめてくると言うのではなく、私にも見せてあげたいと思う喜代美の優しさ。
それが何よりも嬉しいから。
「……なら、あんたの言葉を期待して、気長に待つとするか」
素直じゃない私の可愛気ない返事に、それでも「待つ」と言われて喜代美は嬉しそうに応えた。
「はい!約束します、楽しみに待っていて下さい」
またもや大きく出るから、呆れた苦笑を返してやった。
(……喜代美ってば、私の名前なんかでそこまで一生懸命にならなくてもいいのに)
ねえ、喜代美?
私なんかより、あんたのほうがよほど似合った名前だわ?
ありふれた日常の小さな変化に喜びを見せ、清らかな瞳と美しく優しい心を持つあんたのほうが。
いつのまにか、目元が潤む。
涙の変わりに、一度抑え込んだ熱いものがみるみる込みあげる。
(―――抱きしめてほしい)
不安に怯える心を抱きしめて慰めてほしい。
あの満月の夜のように、優しく包んで安心させて。
手を伸ばしたら、その手を掴んで離さないで。
そしてどこかへ行くなら 私も一緒に連れていって。
―――ああ。今 私は、こんなにも喜代美に触れたいと望んでいる。
心が 喜代美を求めてる―――。
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