この空を羽ばたく鳥のように。
無言でじっと見つめると、大言壮語してしまった喜代美は照れくさそうに表情を崩す。
押さえきれない衝動に駆られて、すがりつきたい思いを視線にのせていた。
「姉上……?」
手燭の心許ない灯りの中、そんな私に喜代美は戸惑い瞬きを繰り返すと、そっと手を伸ばしてぎこちない動作で私の頬に触れる。
「……あ、よかった。泣いておられるのかと思いました」
指に濡れたものが触れないことに、彼は安堵の息をつく。
頬を包んでくれる彼の手が欲しくて、私はその手に自分の手を重ねると、まぶたを閉じて冷えた指先にぬくもりを移すように頬をすり寄せた。
つと喜代美の身体が大きく前に傾く。
「さよ……!……っくしょん!!」
身体を寄せようとした刹那、彼は身をよじってくしゃみした。
「すっ……すみません!」
頬に触れてないほうの手の甲で、口元を押さえながらズッと鼻をすする喜代美を見つめて、
いっきに正気に戻った私は、頬にあてていた彼の手を無理やり降ろした。
「あ 姉上……?」
「…~~っ!」
心配そうに顔色を窺う喜代美に、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「バカッ!私ばかり気遣うからよ!」
一喝すると、首に巻かれていた襟巻きをほどき、喜代美の首にかける。
醸し出していた ただならぬ雰囲気が、いっきに霧散した。
(……危なかった~!)
喜代美がくしゃみをしなければ、私は立場を忘れて弟に色目を使っていた。まさに危機一髪。
「ちょっとは自分のことも考えなさい!
私は肉付きがいいから寒さに耐えられるけど、あんたは痩せてるんだからその分着込まなきゃダメでしょう!?」
恥ずかしさを隠して喜代美の首に乱暴に襟巻きを巻きつけると、彼の顔に赤みがさし、見る間に情けない顔になる。
「に、肉付き……」
「何でそこっ!? 変な考え方しないでよっ!!
肉的なことじゃないわよ、脂身のことよっ!!」
(バカッ!こんな時ばかり男みたいな反応しないでよ!!)
さっきまでのことを考えたら余計に恥ずかしくて、思いっきり喜代美の腕を叩いた。
※大言壮語……実力もないのに偉ぶって大きいことを言うこと。
※肉的……肉欲に関係する肉体上の。
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