この空を羽ばたく鳥のように。
「もっ、もっ……申し訳ありません!」
私の羞恥が移ったのか、喜代美も真っ赤になって恥じ入りながら深く頭を下げた。
そしてあわてて立ち上がると、もう一度深くお辞儀する。
「やや やっぱり、身体が冷えますのでもう休みます!お、おやすみなさい!」
「う、うん。おっ、おやすみ……」
お互い 真っ赤だった。
この羞恥甚だしい空気から解放されることにホッとして、こちらもぎこちなく応じる。
喜代美はくるりと背を向けると、からくり人形のような機械的な動きで、ぎくしゃくしながら濡れ縁を渡っていった。
そうして自分の部屋の前まで来たとき、ふと何かに気づいたように目線を上げる。
「……あれ」
宙を見てつぶやくと、鞜脱ぎ石に置いてあった下駄を履いて中庭に降り立つ。
なんだろうと彼の行動を眺めていると、喜代美は先ほどまでの面映ゆい表情を消して、まっすぐ一点を見つめていた。
桜の木の前でスッと細く長い腕を伸ばすと、昼間 私が枝に吊るした餌入れを手に取り、それをまじまじと見つめる。
「これは……」
「ああそれ……昼間小鳥を逃がしたお詫び。そうやって吊るしておけば、虎鉄も手が出せないでしょ?」
私は梯子に登り、わざと高い枝に吊るしたというのに、楽々と手が届く長身に感心してしまう。
餌を追加する時は喜代美にやらせようとひそかに思った。
そんな私のたくらみに気づかず、振り向いた喜代美は先程とうって変わった喜びの笑顔を見せた。
「……ありがとうございます!これできっと、たくさんの鳥がやって来ますね!」
嬉しそうに言って、あどけなく笑うから。
そんな彼に「やっぱり子供ね」と、心の中で嘆息しつつ苦笑を返す。
そうよね。喜代美に艶っぽいことを期待したって無理な話だわ。
けれど そのままでいい。
今の喜代美のままで。
「へえ、よく出来てますね」
無邪気に笑って餌入れを眺めるその笑顔を見つめながら、それだけで心が満たされてゆくのを感じた。
――――ああ 私。この笑顔が、とてもとても大好きだわ。
※羞恥……恥ずかしく感じること。はじらい。
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