この空を羽ばたく鳥のように。




 年が明けた慶応三年(1867年)三月。
 雪深い会津にも、ようやく春の(きざ)しが訪れる。


 春の彼岸に各村からやって来る彼岸獅子を見物しに、私はおますちゃんと一緒に郭外南町へと急ぎ足を運んだ。

 そこで待ち合わせていたおさきちゃんが、自分の居場所を示すように大きく手を振る。



 「……きたきた!こっちよ!」

 「ごめん、遅くなって!まだ来てない?」

 「もうすぐよ。ほら、お囃子(はやし)が近いもの」



 辺りにはもう人だかりが出来ていて、その中に混じって立っていたおさきちゃんに駆け寄ると安堵の息をつく。



 「よかったあ!……あら?」



 呼吸を整え余裕ができると、おさきちゃんのとなりにいた女の子と目があった。……誰?



 「あ、紹介するわね。お友達のおゆきちゃんよ」



 おさきちゃんにお互いを紹介されて、おゆきちゃんとやらはあわてたようにペコリとお辞儀した。

 背の高いおさきちゃんのとなりにいるからか、彼女の小ささが際立って見える。
 背も低いし、身体も細く頼りなげだ。
 ずいぶん幼く見えたが、年は十四になったという。私達より三つ下か。

 抜けるような白い肌に、黒目がちの瞳。

 表情はどこか気弱でおどおどしているけど、緊張した面持ちに一生懸命微笑んでいるところがいじらしい。
 早苗さんのような華やかさはないけど、純朴な可憐さをもつ清純派とみた。


 辺りを見回すと、周囲には藩士から町人や婦人、そして老人から若者やら子どもに至るまで、あらゆる人々が見物に来ている。

 婦人の中には晴れ着を着ている方もいるし、中級・下級藩士の中には熱狂的に支持している者も多いと聞く。

 その人達にとっては、正月より重要なのだとか。


 よくよく見れば、おさきちゃんの兄君と弟君もいた。
 まわりにいる仲間も、日新館の生徒達だろう。

 みな彼岸獅子が村からやって来るのを、心待ちにしているのだ。



 「おい、来たぞ!」



 声のあがったほうを振り向くと、人だかりに囲まれた中を三頭の彼岸獅子が、太鼓や笛の奏でるお囃子に合わせてこちらにやって来るのが見えた。

 おさきちゃんが教えてくれることには、あれは小田山の(ふもと)にある青木村の獅子団らしい。

 その後ろには、中・下級藩士の若者達や子ども達がくっついて練り歩いていた。


< 95 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop