この空を羽ばたく鳥のように。




 彼岸獅子(ひがんじし)

 ここ会津では、春の彼岸に豊作と家内安全を祈り舞われることからその名で呼ばれる。

 各村にはそれぞれの獅子団があり、その数は二十もあると聞いている。
 それが彼岸が訪れると、一斉(いっせい)に村や城下を舞い歩く。

 これは山々に囲まれた会津盆地に春を告げる、のどかな風物詩のひとつ。


 その形態は、一人立ちの獅子が三匹で踊る「三匹獅子舞」で、三匹の獅子は太夫獅子(たゆうじし)雌獅子(めじし)雄獅子(おじし)で構成される。

 いずれも農家の長男しか、その舞を受け継ぐことができないという。


 頭に獅子頭を被り、紋の染め抜かれたほお掛け(舞手の顔の部分に掛ける布)を巻き、揃いの着物に手甲・白足袋をつけて、腹に小太鼓 両手に(ばち)を持って舞い踊る。

 一糸乱れぬその姿は、春の訪れを喜ぶ民の心を大いに沸かせた。



 「ねえ、もっと近くに寄りましょうよ」



 興奮するおますちゃんの言葉に頷くと、人垣の中に押し入るように混ざり込む彼女の後に、私もおさきちゃんも従う。

 ふと顧みると、おゆきちゃんも私達のあとに続こうとする姿が見えるが、その歩き方がすごく頼りなく、不自然なことに気づいた。



 (あれ……?もしかして、あの子の足……)



 彼女は(びっこ)をひきながらも、危なっかしそうに私達のあとをついてくる。



 (あの子、足が悪いんだわ)


 「おゆきちゃん!こっちよ!」



 となりのおさきちゃんが手招きするのに頷いて、彼女は懸命にあとを追う。
 そこへ、



 「おいおい!どいてくれ!」



 さらにその後ろから、十人くらいの下級藩士と見られる若侍達が、彼岸獅子見たさに勢い込んで人垣を割って入ってきた。


 南町辺りは中・下級藩士の住まいが多くあるところ。
 当然その数は多いし、しかも彼岸獅子に熱狂的な若侍達は、興奮して周りの人なんか目もくれない。

 力任せに押された人の波に、私達は容赦なく巻き込まれた。



 「わっ!」



 私とおさきちゃんは、足を踏ん張り何とか転倒を免れたが、おゆきちゃんの足ではそれも叶わず、小さな細い身体は波に飲まれて地面に倒れた。










 ※(かえり)みる……ふりむいて後ろを見る。振り返る。

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