この空を羽ばたく鳥のように。
そんな初々しいふたりを見つめていると、弟君がこちらに気づいて顔を向けた。
「姉上!」
おさきちゃんを呼ぶと、肩を怒らせズカズカとこちらにやってくる。
「何をしていたんですか!! ちゃんとチビの面倒見てくれなきゃ困ります!! 俺が八十に叱られる!!」
「そうよね、私が悪かったわ」
文句を言う弟に対して、めずらしく素直に謝るおさきちゃん。
彼を追いかけてきたおゆきちゃんが、その光景に驚いて声をあげた。
「利勝さま、さき子さまは悪くありません!悪いのは私です!私がうっかりしてたから……」
「当たり前だ!お前が一番悪い!」
彼はおゆきちゃんを振り返ると、すぐさまぴしゃりと言い放つ。
(おいおい、ほんとに彼女を好きなのか?とてもそうとは思えない言い方だな)
あまりの傲然さに呆れたが、立腹するほど心配したということなのだろうか。
おさきちゃんは首を横に振ると、表情を曇らせて謝った。
「いいのよ、私が悪いの。おゆきちゃんごめんね。私がもっと気をつけていれば……」
「私も悪かったわ。おゆきちゃんの足が悪いなんて知らなかったの。ごめんなさい」
深々頭を下げるおさきちゃんにならい、私も一緒に頭を下げる。
「そんな……おふたりともお顔をあげて下さい!」
困っておろおろするおゆきちゃんをよそに、弟君は腕組みして私達を睨んだ。
「とにかく!チビを連れ回すんなら、以後気をつけて下さいね!!」
年下のくせして、憎たらしいほど威張って言う。
(うちの喜代美とは大違いだ)
くそうと思っていると、その弟君の頭を小気味よく小突く者が現れた。
「気をつけるのはお前だ、馬鹿者!」
「……兄上!?」
頭を押さえて振り返る弟君と、おさきちゃんの声が重なる。
弟君の後ろにいたのは、スラリと背が高く涼やかな目元をした、おさきちゃんの兄君だった。
その彼が、呆れた表情を見せる。
「まったく……。お前のものの言い様には困ったものだな。皆が閉口しているぞ?
それに戸外では女子に声をかけるな。明日は罰だぞ。覚悟しとくんだな」
「……はい」
口を尖らすものの、素直に頷く弟君。
その言葉に、途端におゆきちゃんの表情が曇る。
※傲然……いばって尊大にふるまうさま。
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