いつか、星の数よりもっと
▲初手 白星ふたつ
智哉の話に相づちを打ちながら、バッグの中でこっそり携帯ディスプレイを確認して、緋咲は少し落胆した。
連絡は、まだない。
時刻は17:54。
カフェの中は大きな窓のおかげで解放感は抜群だが、日脚の長い五月の太陽が少し眩しい。
入り込む光の反射で、肝心なディスプレイは非常に見にくかった。
「さっきからずっと、何見てんの?」
直前に観た映画の文句を楽しそうに話していた智哉が、一転、不機嫌極まりないという声で聞く。
付き合って一年になる智哉とは同い年の大学四年生だが、就職活動や卒業論文に忙しくてすれ違いが続いていた。
いっそけじめをつけた方がいいと思いつつ、日々の生活に紛れて結論は今でも後回し。
久しぶりのデートだというのに心ここに在らずなのは確かで、緋咲とて多少の罪悪感はあった。
それでも面倒臭い気持ちの方が勝って、結局安易な返事をしてしまう。
「別に。時間見ただけ」
「何度も時間見るほど、オレの話は退屈ってわけだ?」
そうだ、と正直に答えたら絶対怒るので、この場合の選択肢は否定、一択。
「違うよ。ちょっと気になっただけだって」
「チラチラチラチラ何回も? ロケットの発射待ってるわけでもあるまいし」
このタイミングでユーモアを盛り込んできた智哉を、付き合ってから初めて見直した。
「ほんと。ロケットに乗って飛んで行きたいなー、千駄ヶ谷あたりまで」
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