いつか、星の数よりもっと
クリスマスシーズンに何か買った空き箱なのか、真っ白な箱に雪の結晶やクリスマスツリー、煙突のある家などが描かれている。
ただのミカン箱であったら気にも留めなかっただろうに、緋咲はそのかわいらしさに惹かれ、箱に手を伸ばした。

「痛っ!」

ドスンと箱が落ちた布団の中から声がした。

「あ、ごめん! 大丈夫?」

掛け布団をめくると髪の毛をあちこち跳ねさせた貴時が、身体を丸めてそこにいた。
驚いて声を出してしまったものの、ケガはないようだ。

「うん。大丈夫」

「えへへ。トッキー見っけー」

笑いながら乱れた髪を直してやると、同じように貴時も笑う。

「ねえ、トッキー。これ何だと思う?」

あっさり終わってしまったかくれんぼより、かわいいダンボールが気になっていた。
まず貴時が押入れから出て、続いて緋咲も降りる。
小ぶりのダンボール箱はそれほど重くなくて、緋咲ひとりでも楽に下ろせた。

封もされていないその中身は、緋咲が期待したようなかわいらしいものではなく、いろいろなものが雑多に詰め込まれていた。
ギターのピックに楽譜、ルービックキューブ、野球のグローブとボール、アンモナイトの化石……。
それは貴時の父・博貴の宝箱だった。
今はもう使っていなくても、決して捨てられない思い出の品々。

緋咲が次々取り出すものを、貴時が受け取って眺める。
その繰り返しの中で、緋咲の手が止まった。
格子模様の小さな箱を開こうと、指に力を込めている。

「なにこれ。固い……」

ググググッと押し開いたら、突然その箱がパァンと開いた。
その中身が少しだけ畳の上に散らばる。

「それ何?」

緋咲の手元を覗き込んで貴時が聞いた。

「……ああ、将棋かー」

つまらなそうに緋咲は答えて、拾い上げたマグネット式の駒を貴時に渡す。

「将棋。ゲームだよ」

「しょーぎ……」

まだまだ小さな貴時の手のひらより、それはさらに小さかった。
ベージュの五角形のマグネットには貴時には読めない漢字で“金将”と書かれてある。
緋咲は開いた将棋盤を放り出し、色褪せた古い漫画をめくっている。
貴時はしばらく、その“金将”を眺めていた。

その後、貴時が人生をかけることになる将棋。
その最初の駒は、くしくも緋咲の手によって渡されたのだった。






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