いつか、星の数よりもっと
▲3手 連星たちの再会
太陽からの光で、アスファルトには電線の影までがくっきり映っている。
ピンクのキャリーケースをごとごと引っ張りながら、緋咲は焦げ跡のようなそれをなぞって歩いた。
北国であっても、盛夏は毎年倒れる人が出る程度には暑い。
地元食材を加工・販売する会社から内定をもらえた緋咲は、久しぶりに団地の敷地に踏み入った。
会社は実家と同じ市にあるので、挨拶も兼ねての帰省である。
毎年長期休みはアルバイトに明け暮れていたけれど、今年は少しゆったりとしたスケジュールを組んでいた。
友達との卒業旅行も計画しているため、卒業論文も早めにすすめなくてはいけない。
「ただいま~。あっつ~い……」
緋咲の住む下宿から、バスで駅まで15分。
そこから電車で50分。
さらにバスで7分。
乗り継ぎなどを含めると2時間強かけて戻ってきた地元は、同じ県内でも内陸のせいなのか一段と暑い。
バス停から3分歩いて、キャリーケースをかかえて三階までの階段を上ると、ノースリーブのカットソーが背中に張り付いていくのがわかった。
「何、この温度設定! もうちょっと涼しくしてよー」
「これ以上下げたら身体に毒よ」
「新陳代謝が落ちてるお母さんと一緒にしないで。多少の毒は薬になるのよ」
「失礼ね! こっちは更年期でむしろあんたより暑いくらいよ!」
悲しい叫びを聞き流しながらピッピッと設定温度を2度ほど下げて、エアコンの真正面に寝転ぶ。
張り付いたカットソーの上を、エアコンが面倒臭そうに吐き出した風が通り過ぎていく。