いつか、星の数よりもっと
翌朝はよく冷え込み、布団から出るのも渋った緋咲は、ファンヒーターの前で尚もモタモタ動かずにいた。
従って、チャイムが鳴ったときはまだパジャマのままだった。
「……はい?」
こんな朝早くに一体誰だ?
不信感もあらわにインターフォンを取ると、向こうは戸惑ったようにモジモジと答える。
『……えっと、あの。あ、おはようございます。……貴時です』
叩きつけるようにインターフォンを切って、すぐさま玄関ドアを開けた。
朝の湿った空気の中、確かに貴時が立っていて、緋咲を見るなり目をそらす。
「あ、ごめん。ちょっと待ってね」
ドアを閉めると掛かっていたコートをひっつかみ、とりあえず羽織って貴時のところに戻った。
「お待たせ。トッキー、風邪はひいてない? ……大丈夫そうだね」
このあたりの男子高校生は、真冬でもなぜか頑なにコートを着ない。
貴時も制服にマフラーをぐるぐる巻いただけの姿で、寒そうに身体を縮こまらせているけれど、とりあえず風邪ではなさそうだ。
「うん、大丈夫」
「こんなに朝早く、どうしたの?」
気を取り直すように、貴時はメガネを人差し指で直した。
「昨日のこと、謝りたくて来たんだ。ごめん。痛かったよね?」
貴時の白い息と目線が、緋咲の肩に落ちる。
「ちょっとイライラしてて、ひーちゃんに当たっちゃった。本当にごめんなさい」
大槻の指導ゆえか、貴時の謝罪は深かった。
背負っている黒いリュックサックの中が、ガチャッと騒ぐ。
「平気。嬉しかったから」
貴時は瞠目して、寒さで白かった頬もわずかに上気する。
「昨日は私も悪かったし。とりあえず入って。寒いでしょ?」
ドアを大きく開けて招くと、貴時は困ったように笑う。
「謝った直後で悪いけど、でも言ったことは撤回できなそう。ひーちゃん、やっぱり無神経だな。俺をまだ子どもだと思ってる? それとも誰でもかんたんに部屋に上げるの?」
さすがにムッとした緋咲は眉を吊り上げる。
「そんなわけないでしょ! 言っておくけど、この部屋に男の人を入れたことないから。今だってトッキーだから入れるのよ。もちろん子どもだなんて思ってない。だってね、だって、私ね、あの……」
勢いよく始まった緋咲の話は、どんどん弱々しくなった。
自分から気持ちを打ち明けた経験がないから、肝心な言葉がどうしても出てこない。
ウエストで結ぶタイプのリボンをモジモジと指に絡ませながら、なんとか言葉を続けようとした。
「私ね、……私、トッキーのことがね、……」