いつか、星の数よりもっと
結局一時間近くコインランドリーに滞在し、ひとしきり騒いでから、緋咲は自宅とは逆方向に車を走らせた。
次に会うときは、何かお祝いの贈り物をしたくて。
「いらっしゃいませ」
足を踏み入れたのは、生涯ご縁がないと思っていたブランドショップだった。
駅前や大きな通り沿いにある入りやすいところではなく、裏路地にひっそりあり、店内の様子もわかりにくい店。
流れるような筆記体で描かれた読めない看板と、シンプルなブラックスーツを着たマネキンだけが、かろうじて服屋であることを示している。
中は艶やかに磨かれたダークブラウンの床がまぶしいほどで、くたびれたパンプスで歩くことさえ躊躇われたが、ここまできたら引き返す方が難しい。
ネクタイもシャツも一点一点、宝石でも扱うかのように気取って並べられていた。
「何かお探しですか?」
雑な扱いをされるかと身構えた緋咲だったが、顧客の匂いを嗅ぎ付けたのか、案外と親切に対応してくれる。
ひとりならば、触れることもできなかったシャツを、次々広げて説明してくれた。
「首周りのサイズはどのくらいですか?」
普段S、M、Lでばかり買うので慌てて沙都子に確認しながら、とりあえず白いシャツをひとつ決める。
襟と袖のカッティングがきれいなので、中継で手元が映ってもいいような気がして。
ネクタイに関しては店員さんが細かく説明してくれたけれど、緋咲はある一本に目を奪われた。
瑠璃紺と黒のストライプ柄に、一条、銀色のラインがすうっと通っている。
「これにします」
ネクタイピンも合わせて、自分のためなら市内で一番高いマリーナタワーから飛び降りても買わないような値段を、銀行名入りの封筒から直接払った。
愛の大きさは金額ではないけれど、その一端はうかがえるもので、緋咲は過去、誰にもこんな値段を払ったことはない。
貴時の胸元に、精一杯の願いを込めて消えない流れ星を贈ろう。