いつか、星の数よりもっと
ふっと会場が暗くなり、スクリーンには貴時の幼い頃からの写真が映し出された。

「あ! この頃のトッキー、すっごくかわいかったよね」

ふくふくの頬っぺたは、写真からでもやわらかさが伝わってくる。
いとおしそうにそれを指でつついているのは、5歳の緋咲だった。

「こうして見ると、駒が大きく見えるわね」

「腕がぷくぷくでかわいい……触りたい」

将棋を始めたばかりの頃は、手つきも様になっておらず、あどけない様子が本当にかわいかった。
が、それでも指し手はすでに鋭く、見た目と盤上のギャップに泣いた大人も多かった。
写真の中で駒を持つ手はどんどん大きくスラリとしていき、年齢的な成長とともに、研鑽を積んだ様子に緋咲も目を潤ませる。

「……本当に、大きくなったなあ」

「あらこのローストビーフ、お肉はおいしいけどソースはいまいちね。緋咲、お刺身のお醤油つけた方がおいしいわよ」

スライドが終わって会場が拍手に包まれる中、緋咲は母の忠告通り、ローストビーフを醤油で堪能する。
涙と肉の甘味を同時に噛み締めていると、生春巻を飲み下した紀子が、スイートチリソース香るため息をついた。

「それにしても、貴時君って地味ねえ。見てよ、あのネクタイ」

「げっほ!」

どこかの組織の会長に挨拶している貴時の首元には瑠璃紺と黒、そして銀色のラインの入ったネクタイが結ばれている。

「会社に行くならともかくお祝いなんだから、もっと華やかにすればいいのに。お客さんに紛れちゃうわ」

「そんなことないよ。本人の輝きで十分目立ってるって」

実際どこにいても、緋咲の目には貴時しか映らない。
目立たなくていい。
ライバルを増やしたくないから、むしろもっと地味に! と心の中で思う。
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