いつか、星の数よりもっと

さっきは暑くてたまらなかった気温が、今度は冷えた身体をあたためてくれる。

タタタタタン、タタタタタン。
タタタタタン、タタタタタン。

ほんの10分前に上ったばかりの階段を、再び一階まで降りると、慣れた仕草でチャイムを鳴らした。

ピンポーン。

少しこもったような音がグレー一色の階段に響いた。
ドアの向こうでガタゴトと人の動く物音が聞こえ、インターフォンが繋がる。

『はい』

久しぶりに聞く沙都子の声は変わっておらず、疲れも忘れて口元がほころぶ。

「こんにちは。緋咲です」

『え! あらあら、ちょっと待ってね』

再びガタゴトと音がして、「貴時ー! 緋咲ちゃんよー」という声に続いてドアが開いた。

「緋咲ちゃーん! いらっしゃい」

「ご無沙汰してます」

「無事就職決まったって? おめでとう!」

「ありがとうございます」

「どうぞどうぞ。上がって」

ドアを押さえて沙都子が場所を開けるので、緋咲も遠慮なく玄関に入った。

「お邪魔しまーす」

靴を脱いでチラッと廊下の奥を見たけれど、ピッタリ閉まった襖の向こうは静まりかえっていた。

「一年は会ってないわよね?」

ドアを閉めながら沙都子は計算するように宙を見る。

「二年ぶりかなー。去年の夏はバイトと教習所通いで忙しかったし、お正月は一泊だけ帰って来たけど」

「そうそう。私たちが旦那の実家に行っててすれ違いだったのよね。ちょっと見ないうちに、またキレイになったんじゃないの?」

「えへへ、そうかなあ?」
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