いつか、星の数よりもっと
「それでクリスマスなんだけど、イブは対局が夜の11時くらいまであるから、泊まりになるんだ。だからひーちゃん、次の日東京に来ない?」
「いいの? 行く行く!」
「どこかおいしいお店聞いておく」
「うん!」
今度こそ偽りない笑顔で貴時に抱きつくと、少しよろけながらもしっかり受け止めてくれる。
その肌の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、緋咲は耳元で囁いた。
「その代わり、一番最初の白星をプレゼントしてね」
耳に口づけるようにして、貴時も答える。
「約束する」
中継もされないその対局において、貴時は胸に流れ星を抱いて臨み、見事一勝を飾るのだけど、それは彼がこれから築いていく星群のほんのひとつに過ぎない。
緋咲がいちいち数えていられないくらい星を贈られるのは、まだ先の話。
「緋咲」
呼ばれて顔を見ると、貴時がそっと緋咲の耳をなぞった。
ゆっくり目を閉じる緋咲の呼吸は、狂おしさでいつもわずかに震える。
その震えごと、貴時の唇が緋咲を包んだ。
こうして触れ合うことにずいぶん慣れてきた貴時に対して、緋咲は未だに甘く戸惑う。
貴時を見つめる表情の変化に本人は気づいておらず、また『緋咲』と呼ぶだけで瞳の奥が香ることを、貴時の方でも自分の中だけにしまっている。
「貴時、愛してる」
「うん」
星の数にはまだまだ届かないその言葉を今日もひとつ重ねて、ふたりのキスは深まっていった。
end.