いつか、星の数よりもっと
「16歳、あ、もう17歳か。17歳で三段なら、遅い方じゃないよね?」
「高校生のうちにプロになれたらいいんだけど……」
中学生でプロ入りできる人はごく稀で、高校生で四段昇段できれば早い方だ。
貴時は高校二年生の後期から三段リーグに参加するので、すぐに抜けられたら早い昇段と言える。
「年齢制限まで9年? それだけあれば大丈夫じゃないかな」
奨励会には年齢制限があり、21歳までに初段、26歳までに四段に昇段しないと強制退会となる。
けれど、小学五年生で奨励会入りしてから6年足らずで三段に昇段できたのだから、9年もあればあとひとつくらい昇段できるのではないかと、緋咲は安易に考える。
もちろん、10年近く三段にいて、とうとう昇段できなかったケースがあることもわかってはいるけれど。
祈るように、沙都子はコーヒーカップを握り締める。
「そうだといいんだけど。でもあの子、なんだかずっと焦ってるのよね」
「焦る?」
「早く四段にならなきゃって、自分にプレッシャーかけてるみたい。……うちの、お金のこともあるのかな」
奨励会にはもちろんお金がかかる。
入会金10万円。
会費の月1万円は、一年分を3月末までに一括で振り込むことになっていて、途中で辞めてもこれらは返ってこない。
何より、貴時のように地方に住む奨励会員の負担は交通費。
月二回の例会のために、東京もしくは大阪まで通わなければならない。
貴時は毎回高速バスを利用しているけれど、それは疲労した状態で戦いに臨むことを意味する。
「そっか……」
お金のことになると、緋咲には何も言えない。
沙都子がパートをふたつ掛け持ちして、なんとかやり繰りしていることも知っているからだ。
「最近は奨励会員だけじゃなくて、プロになってから大学に進学する人だっているのに、貴時は進学しないって。その方が将棋に集中できるかもしれないけど、もしなれなかったらって思うと不安で……」
これまで気にならなかったエアコンと冷蔵庫の音が、急に大きくなったように感じられた。
緋咲がコーヒーを飲んだこくんという音に、沙都子がはっと顔を上げる。
「ああ、ごめんね。なんだかしんみりしちゃって。三段になれたことは素直に嬉しいの。いよいよ夢に手が届くところまで来られたんだから」
沙都子の真に嬉しそうな顔が見られて、緋咲も肩に入っていた力を抜いた。
「高校生のうちにプロになれたらいいんだけど……」
中学生でプロ入りできる人はごく稀で、高校生で四段昇段できれば早い方だ。
貴時は高校二年生の後期から三段リーグに参加するので、すぐに抜けられたら早い昇段と言える。
「年齢制限まで9年? それだけあれば大丈夫じゃないかな」
奨励会には年齢制限があり、21歳までに初段、26歳までに四段に昇段しないと強制退会となる。
けれど、小学五年生で奨励会入りしてから6年足らずで三段に昇段できたのだから、9年もあればあとひとつくらい昇段できるのではないかと、緋咲は安易に考える。
もちろん、10年近く三段にいて、とうとう昇段できなかったケースがあることもわかってはいるけれど。
祈るように、沙都子はコーヒーカップを握り締める。
「そうだといいんだけど。でもあの子、なんだかずっと焦ってるのよね」
「焦る?」
「早く四段にならなきゃって、自分にプレッシャーかけてるみたい。……うちの、お金のこともあるのかな」
奨励会にはもちろんお金がかかる。
入会金10万円。
会費の月1万円は、一年分を3月末までに一括で振り込むことになっていて、途中で辞めてもこれらは返ってこない。
何より、貴時のように地方に住む奨励会員の負担は交通費。
月二回の例会のために、東京もしくは大阪まで通わなければならない。
貴時は毎回高速バスを利用しているけれど、それは疲労した状態で戦いに臨むことを意味する。
「そっか……」
お金のことになると、緋咲には何も言えない。
沙都子がパートをふたつ掛け持ちして、なんとかやり繰りしていることも知っているからだ。
「最近は奨励会員だけじゃなくて、プロになってから大学に進学する人だっているのに、貴時は進学しないって。その方が将棋に集中できるかもしれないけど、もしなれなかったらって思うと不安で……」
これまで気にならなかったエアコンと冷蔵庫の音が、急に大きくなったように感じられた。
緋咲がコーヒーを飲んだこくんという音に、沙都子がはっと顔を上げる。
「ああ、ごめんね。なんだかしんみりしちゃって。三段になれたことは素直に嬉しいの。いよいよ夢に手が届くところまで来られたんだから」
沙都子の真に嬉しそうな顔が見られて、緋咲も肩に入っていた力を抜いた。