いつか、星の数よりもっと
盤上に広がった駒に貴時は早速手を伸ばす。
が、「待ってください」と男性に止められてしまう。

「駒は、上位の人間から先に並べていきます」

と、自分の胸をとんとんと指差した。

「私が王将を取ったら、次に君が玉将を取る」

いつもの貴時らしく、こくんとうなずいて膝の上に手を戻した。

「駒の並べ方は知ってますか?」

玉将を置きながら貴時は首を横に振る。

「じゃあ今日は大橋流を教えましょう。プロでもほとんどが大橋流だし、何より簡単だから」

真ん中に王将を置いたら、金将、銀将、桂馬、香車の順に左、右、左、右と並べていく。
次に角行、飛車。
それから歩兵をまず真ん中の五筋に置いて、これも左、右の順に9枚並べる。
これが大橋流。
もうひとつ伊藤流という並べ方があるけれど、そちらはもう少しだけ複雑で、採用しているプロ棋士も少ない。

「6枚落ちでやってみましょうか」

男性は自分の方に並べた駒の中から、飛車と角行、香車二枚と桂馬二枚を駒袋に戻す。
棋力に差がある場合、上位の者が駒を落として(減らして)戦うことがあるが、6枚落ちは初心者の棋力を量る際には一般的なハンデと言える。
しかし貴時にその知識はなく、スカスカした盤面を驚きの目で見ていた。

「勝てそうですか?」

瞳の奥に自信を溢れさせて、貴時は強くうなずいた。

「そう。じゃあ、やってみましょう。よろしくお願いします」

深く頭を下げる男性を見て、貴時もおずおずと頭を下げた。

「よろしくおねがいします」

< 24 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop