いつか、星の数よりもっと
いつの間にか会場には人が増え、テーブルが徐々に埋まっていく。
大仰な開会宣言がなされることなく、フェスティバルは始まっていたらしい。

指導対局の準備をする貴時に、幾人もの人が声を掛けていた。
はにかむような笑みを浮かべて何か答えて会釈し、また別の人にも同じ対応を繰り返している。
恐らく、お祝いの言葉を掛けられているのだろう。
ただでさえ田舎の人間関係は狭く、将棋が絡むと更に狭い。
ここにくる人の多くが、貴時の昇段を知っていて、応援しているのだ。

「今日はずっとこちらに?」

何気ないその質問に、緋咲は苦笑いで答えた。

「……はい。そのつもりです。お邪魔でしょうけど、すみません」

自ら送迎を志願してついてきたくせに、緋咲の運転手ぶりはひどいものだった。

『ちょっと待って! え? え? どこどこ?』

ナビをつけているはずなのに、それを見る余裕もなく、後続車がおびえるような不安定な走りを続ける。

『マモナク右、デス。……右、デス』

親切に音声ガイドが伝えるけれど、

『今から右なんて無理! 車線変更できないもん!』

『通りすぎちゃったよ。どこかで転回しないと……』

貴時が辺りを見回して、入れそうなスペースを探すがやはり、

『転回なんて無理! なんとか別ルート探してよう~』

結局貴時が口頭で車線まで指示しながら、大きく遠回りをしてたどり着いたのだ。
広い駐車場はまだまだ空いていたけれど、一度帰って戻って来たらほとんど埋まっているだろう。
車庫入れも苦手な緋咲が、狭くなったスペースに駐車できるとは思えなかった。
何より、もう貴時なしで帰れる気がしない。

「だったら、ちょっとやってみませんか?」

膝に手をつきながら大槻がゆっくり立ち上がる。

「……私、駒の動かし方すら知りませんよ?」

大槻はひらひらと手を振る。

「今日はアマチュア高段者から初めて駒に触れる人まで、広く対応する用意があります。まあ、こちらへどうぞ」
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