いつか、星の数よりもっと
「そもそもこの将棋は、正確に指せば後手必勝と言われています」
「後手必勝?」
「つまり、この将棋をコンピューター相手に指した場合、例え市川君でも先手では絶対に勝てないということです」
お先にどうぞ、と先手を譲られた時点で、すでに“意地悪”が始まっていたらしい。
「守口さんには将棋の厳しさを知ってもらいたくて」
本格的にむくれた緋咲に、大槻はきっちり頭を下げた。
「もう一度やりましょう。今度はちゃんと教えますから」
駒を初形に戻し大槻が待つので、緋咲ももう一度だけ、と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
今度は大槻が最初にひよこを取る。
さっき大槻がしたように、緋咲はそのひよこをゾウで取った。
「駒を進めるときには必ずその駒が取られる危険性を考えます。取られない場所に進めるか、取られても取り返せるように他の駒にサポートさせるか」
大槻はゾウを動かしたけれど、それはどの駒でも取れない位置だった。
緋咲は考えて考えて、ゾウで大槻のキリンを取る。
大槻はすぐさまライオンでそのゾウを取ったから、駒の損得は変わらない。
けれど今回緋咲には、そこまでちゃんと見えていたため、さっきのような動揺はなかった。
できることなら、自分の駒を取られずに相手の駒が取れた方がいいに決まっている。
しっかり考えた末に、大槻のゾウの目の前に持ち駒のひよこを打った。
それを見て大槻はにっこり笑う。
「悪くない手です。頭の丸い駒、つまり正面に進めない駒を前から攻めることは大切な基本ですから」
褒められると嬉しいもので、緋咲の頬もつい緩む。
大槻はそのひよこから逃げつつ、緋咲のキリンを取ったので、緋咲も冷静にライオンでゾウを取り返した。
取ったり取られたりを繰り返すばかりで、緋咲にはどうしたらライオンが捕まえられるのか見当もつかない。
大槻がしたように駒を全部取れたらいいだろうけど、そんな技術はない。
現在どちらが勝ちに近いのか、自分は何を目指して駒を進めたらいいのか。
駒の動きを考えるだけで余裕がなく、本来考えるべき最終目標まで頭が回らなかった。
そうしているうちに、大槻のひよこが緋咲のライオンの正面に打たれる。
相手のライオンの動きばかり気にして、自分のライオンのことはすっかり忘れていた。
首筋に刃物が当てられたように背筋がざわっとして、反射的に緋咲はライオンを逃がした。
「後手必勝?」
「つまり、この将棋をコンピューター相手に指した場合、例え市川君でも先手では絶対に勝てないということです」
お先にどうぞ、と先手を譲られた時点で、すでに“意地悪”が始まっていたらしい。
「守口さんには将棋の厳しさを知ってもらいたくて」
本格的にむくれた緋咲に、大槻はきっちり頭を下げた。
「もう一度やりましょう。今度はちゃんと教えますから」
駒を初形に戻し大槻が待つので、緋咲ももう一度だけ、と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
今度は大槻が最初にひよこを取る。
さっき大槻がしたように、緋咲はそのひよこをゾウで取った。
「駒を進めるときには必ずその駒が取られる危険性を考えます。取られない場所に進めるか、取られても取り返せるように他の駒にサポートさせるか」
大槻はゾウを動かしたけれど、それはどの駒でも取れない位置だった。
緋咲は考えて考えて、ゾウで大槻のキリンを取る。
大槻はすぐさまライオンでそのゾウを取ったから、駒の損得は変わらない。
けれど今回緋咲には、そこまでちゃんと見えていたため、さっきのような動揺はなかった。
できることなら、自分の駒を取られずに相手の駒が取れた方がいいに決まっている。
しっかり考えた末に、大槻のゾウの目の前に持ち駒のひよこを打った。
それを見て大槻はにっこり笑う。
「悪くない手です。頭の丸い駒、つまり正面に進めない駒を前から攻めることは大切な基本ですから」
褒められると嬉しいもので、緋咲の頬もつい緩む。
大槻はそのひよこから逃げつつ、緋咲のキリンを取ったので、緋咲も冷静にライオンでゾウを取り返した。
取ったり取られたりを繰り返すばかりで、緋咲にはどうしたらライオンが捕まえられるのか見当もつかない。
大槻がしたように駒を全部取れたらいいだろうけど、そんな技術はない。
現在どちらが勝ちに近いのか、自分は何を目指して駒を進めたらいいのか。
駒の動きを考えるだけで余裕がなく、本来考えるべき最終目標まで頭が回らなかった。
そうしているうちに、大槻のひよこが緋咲のライオンの正面に打たれる。
相手のライオンの動きばかり気にして、自分のライオンのことはすっかり忘れていた。
首筋に刃物が当てられたように背筋がざわっとして、反射的に緋咲はライオンを逃がした。