いつか、星の数よりもっと
「学校はあと一年で終わるから」

昔、例会は平日に行われていて、奨励会員は学校を休んで例会に出席していた。
記録係も平日の仕事なので、常に出席日数との戦いだったらしい。
またプロ棋士の認知度も低かったために、学校側の理解を得るのも難しかったという。
奨励会員の進学率が高くなって、例会は土日に開かれるようになったものの、それでも両立は相当に負担である。
貴時もまた、奨励会員にはよくあることだけど、修学旅行も文化祭も、例会と重なったために欠席していた。

「仕方のないことだけど、本当ならもっと何も考えず、周りに甘えていい時期なんだけどね」

「いや、俺は全然足りてない」

貴時最初の三段リーグは、8勝10敗。
一期抜けどころか、勝ち越しもならなかった。
そもそも4連敗スタートと、最初から昇段戦線を離脱していた。
「必ず一期で抜ける」その意気込みが空回りしたようだ。

三段リーグは、プロの順位戦同様、前期の成績によって、次期の“順位”が決まる。
成績が同じ場合、前期の順位が上の方が昇段できるから、例え昇段を逃したからと言って、その後の対局をおろそかにはできない。
連敗の後を8勝6敗。
最終日は2連勝を決めた貴時のモチベーションは、落ちていなかったと言える。

「世の中には努力を努力とも思わず、呼吸するみたいに研究に没頭できる人間もいるんだよ。俺ももっと頑張らないと」

「本当に大変だね、将棋って」

「大変だけど、でも将棋は努力したらちゃんと成果が出るから。努力ではどうにもならないことだってたくさんあるでしょ?」

「そう言われちゃったら、その通りなんだけどさ」
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