いつか、星の数よりもっと
「でもそのうち彼女のひとりくらい作るでしょ。いつまでもトッキーに恋人の代打させてるわけにいかないよ?」

パンケーキに甘味を感じなくなって、緋咲はメープルシロップを足した。
それでもふわふわのパンケーキがべちゃべちゃしただけで、元のおいしいパンケーキには戻らない。

「トッキーも、恋愛するのかな?」

「あんたの乱れた高校生活忘れたの? 男子高校生なんてあんなもんでしょ」

「トッキーはあんな男たちとは違うよ!」

「自分の元彼たちつかまえて本当にひどい女だね」

食べる気力が失せてフォークとナイフを置いた。
七瀬は相変わらずパクパク食べているから、ここの味が落ちたわけではないらしい。

「トッキーに彼女できたら、緋咲、嫉妬に狂ったりして」

「……そんなことない。トッキーには幸せになってほしいもん」

誰より貴時の幸せを願う気持ちはある。
だけどそれと貴時が恋愛することとが、緋咲の中ではうまく結びついていない。
もしかしたらこれまでにも好きな人はいたのだろうか?
今だって本当はいるかもしれない。

「ところで、パンケーキとホットケーキって、結局何が違うのかな?」

唐突に話題を変えたのに、七瀬は特に気にした様子もなかった。

「さあね。私は同じだと思ってるんだけど、こんなふわふわのじゃなくて、家で作るペナペナのも好きだよ」

「あ、それわかる!」

「この前寝ぼけて作ったら卵を間違って二個入れちゃって、牛乳も足りなかったから半分お水入れたの。そうしたら生地べちゃべちゃで、このパンケーキの半分以下の薄さだったんだけど、すっごくおいしかったよ!」

「へえー! 今度やってみよう!」

「やってみて、やってみて。トッキーにも作ってあげな」

思わずすがった、小さな震える腕を思い出した。
あの手は昔から緋咲の側にあって、そして駒を持つものだった。
それがこれから先、誰かに向けられることだって当然あることなのだ。
実際、貴時に憧れる女の子はいたのだから。

「ホットケーキ、作るの苦手なんだよね」

不思議そうな顔をする七瀬に気づかず、ミルクティーにガムシロップをもうひとつ入れて、からんとストローを回した。




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