不埒な先生のいびつな溺愛 〜センシティブ・ラヴァーズ〜
雨が強くなってきた。おそらくこのまま、台風になるかもしれない。
折り畳み傘ではお互いの肩が濡れ始め、伏見さんは少し早足になる。私を気遣ってか、彼の手が自然と肩に回されていた。

「走りましょう、秋原さん」

これで肩は濡れないし、早く駅に到着できる。それだけだ。今は伏見さんにお世話になる理由がちゃんとある。それに、彼と私は友人だと言えるし。
肩を抱かれて相合い傘をしても、深い意味はない。そう言い聞かせた。

そのとき、久遠くんの切ない顔が浮かんで、私は足を止めていた。

「……あの、伏見さん。やっぱりここで大丈夫です」

「え?しかし……」

言っている意味が分からないだろう。ここで、と言っても、ここは道の真ん中だ。傘もないし、このまま駅まで送ってもらうことのほうが合理的。

でも私は、これ以上伏見さんと一緒にいることは、久遠くんを裏切っていることになる気がしたのだ。こんな場面を見られたら、久遠くんを傷付ける。
傷付ける行動というのは、彼に見られていても、見られていなくても、したくはない。

「大丈夫です。伏見さんは書店に戻ってください。まだ加地さんが中にいるんですよね」

「いえ、別に彼女は……」

「と、とにかく。私は大丈夫なのでっ……」

「……あれ?秋原さん。あの人、久遠先生じゃないですか?」

私はすぐに顔を上げた。
透明のビニール傘をさした久遠くんが、そこにはいた。
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