不埒な先生のいびつな溺愛 〜センシティブ・ラヴァーズ〜
雑踏の中にいるはずが、彼の周りだけ切り取られたように人がいなかった。
緩いワイシャツにコートを羽織ったいつもの無造作な彼が、透明の傘越しにこちらを見ている。その距離は、十メートルといったところ。

彼は目を開いて固まっていた。

まず、伏見さんがこの状況に気づいて、私の肩から手を退けた。そして私を傘から出して、「ではここで」と言って離れていく。このとき、私が濡れることはかまわない様子だった。それは正しい判断だった。

しかし少し遅かったかもしれない。伏見さんが去ったところで、この状況は覆らない。
先程の光景が鮮明に久遠くんに焼き付いて、彼を傷付けるにはもう充分な材料が揃っていた。

「久遠くん。……ど、どうしたの?」

言い訳から始めるべきなのか、ここにいる理由を尋ねるところから始めるべきなのか。
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