不埒な先生のいびつな溺愛 〜センシティブ・ラヴァーズ〜
直感で心を打つ発言ができる彼に比べて、純粋さの面で私は劣っている。つまらない計算を入れなければ言葉が出てこなかった。

そもそも、私が正直な言葉を並べ立てることは、余計に彼を奈落の底へ突き落とすに違いない。
「伏見さんとたまたま会って、彼の隣にいると貴方といるときより自然に感じた。これが浮気の第一歩だと思った」これが正直な気持ちだ。言えるわけがない。

久遠くんは返事をせず、足元に開いたままの傘を落とした。

「久遠くん!?」

彼は逃げた。駅とは反対方向だから、十分も走れば着く彼の自宅へ戻るつもりだ。
ここは彼の家の近くなのに、私はやはり迂闊だった。久遠くんは私と一緒でなければ出掛けないと思っていたのだ。

「待って!久遠くん!」

彼の傘を拾い、私も走り出した。誤解を解かなきゃ。いや、誤解じゃない。私が反省して、久遠くんに謝って、許してもらうんだ。

ずぶ濡れになって遥か遠くを走っている彼に心が痛んだ。久遠くんは多分、私に傘を置いていった。
ズタズタになった心でも、奥底には私を労る優しさを常に持っている。
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