隣席 ー君と一瞬と蟠りー
その日の夕方。
家に帰り、広辞苑が入っているかのような重いリュックをドスンと音を立てて床に置いた。
焼き魚の匂いが漂った。直ぐ様リビングに向かう。
「桜野高校、今度文化祭あるらしいから一緒に見学しない?」
最早タイムリーであった。私はそれに驚き、口に含んでいた紅茶を勢いよく飲み込んでしまった。ゲホゲホと咳が出る、誤飲しそうになったのだろう。
桜野高校は電車一本で通える距離のところにある。偏差値はかなり高く、良くも悪くもないような微妙な成績である私の、今の時点では簡単に入ることはまず不可能、という感じだった。いや、誰だってそうか。
それなりに楽しそうな学校だよ、と母さんは付け足した。
私は、行きたい行きたい、と同じことを二回も言い興味津々に頷いた。
いや、興味があるだけで実際は乗り気ではなかった。
高校の雰囲気ってどうなんだろうなー、ということを思っただけだった。