悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン
「娘の容体は」
幼い時、さんざんグロリアを見て来た医者が呼ばれた。
ベッドの上で硬く目を閉じているセシルの呼吸は荒く、体温も異常に高い。
「ある程度、毒に耐性があったから良かったです。
そうでなければ死んでいたでしょう。
解毒薬を処方しました。後はセシル様次第です。
私は隣室に控えております。
何かあればお呼びください」
沈痛な面持ちで医者は用意された部屋へ移った。
今晩は何が起こるか分からないので伯爵家で待機するつもりなのだ。
セシルとグロリアが幼い時からこの邸に通っていた医者にとって二人は孫のような存在だった。
それにセシルの作った医者ギルドに所属しているので、邸に通わなくなり、グロリアとはほとんど顔を合せなかったがセシルとはよく会っていた。
会う度に年老いた体を気遣い、いろんなお菓子やお茶を差し入れてくれた。
「あんな優しい子がなぜ、こんな目に」
「先生、お茶を淹れました。お飲みください」
「ああ、ありがとう。ルル」
ルルの淹れてくれるお茶はいつも美味しい。
けれど今回限りは飲んだお茶の味すら分からなかった。
「先生と呼ばれていても、どれほどの知識があろうとも最後は患者の体力次第。
ままならないものだ」
そう漏らした呟きにルルは悲し気な笑みを浮かべる。
「何かあればお呼びください」
そう言ってルルは出て行ったので部屋には先生だけが残された。
与えられた部屋は自分が普段使っている部屋の何倍も大きいはずなのに空気による圧迫感が酷かった。
勿論、空気が人に圧迫感を与えることなんてない。
これはようは気持ちの問題なのだろう。
しかし、今やこの邸全体がそういった空気に包まれていた。
無理もない。
邸の主人の娘が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。
◇◇◇
「グロリアは何と言っている?」
グロリアのメイドが用意したお茶には毒が入っていた。
勿論、グロリアの物にも入っていたが、グロリアは一口の飲んではいなかった。
だが現状から見てグロリアが犯人だとしか考えられない。
尋問に当たったヴァンと立ち会ったジークは苦虫を噛み潰したような顔をした。
尋問がジークではなくヴァンが行ったのは感情のあまり何をするか自分でも自信がなかったジークとそれを危惧したヴァンの意見が一致した為だ。
「毒のことは知らないそうです。
メイドが自分達を殺す為にやったと」
「旦那様、グロリア様の部屋から毒の入った小瓶が見つかりました」
ルルが差し出した小瓶を伯爵は重い溜息と共に受け取った。
「この小瓶に関しても知らないの一点張りでした」
「そうか。メイドの方は?」
「侍女長が尋問をした結果、グロリア様の命令で行ったと」
ヴァンの報告に伯爵は皮肉気な笑みを浮かべる。
「貴族が自分の仕出かした悪事を使用人になすりつけることも、自分の身可愛さに使用人が主人の指示でやったと白状することも王道過ぎて笑えんな」
しかも殺そうとしたのは自分の姉なのだから。
「どうしますか、旦那様」
ジークの怒りに満ちた目が伯爵を見ていた。
元々ジークはグロリアのことがあまり好きではなかったのだ。
グロリアは何の努力もしていないくせに、必死に努力をしているセシルを何もできない人間だと、顔だけの人間だと思い込んでいるのだから当然だ。
「あの子に姉を害そうとする頭があるとは思えない。悲しいことにあの子はまだそこまで賢くはない。
それにこの毒だってあの子が手に入れられる物ではないだろう。
きっと裏で糸を引いている輩が居るはずだ。
まずは、そうだな。グロリアを開放してやれ。
全てはメイドの仕業でお前は巻き込まれた。下手をしていたら死んでいたかもしれない可哀想な被害者だというレッテルを貼ってな。
その上でジーク、グロリアを見張れ。きっとアイツは誰かと接触するはずだ」
「畏まりました」
幼い時、さんざんグロリアを見て来た医者が呼ばれた。
ベッドの上で硬く目を閉じているセシルの呼吸は荒く、体温も異常に高い。
「ある程度、毒に耐性があったから良かったです。
そうでなければ死んでいたでしょう。
解毒薬を処方しました。後はセシル様次第です。
私は隣室に控えております。
何かあればお呼びください」
沈痛な面持ちで医者は用意された部屋へ移った。
今晩は何が起こるか分からないので伯爵家で待機するつもりなのだ。
セシルとグロリアが幼い時からこの邸に通っていた医者にとって二人は孫のような存在だった。
それにセシルの作った医者ギルドに所属しているので、邸に通わなくなり、グロリアとはほとんど顔を合せなかったがセシルとはよく会っていた。
会う度に年老いた体を気遣い、いろんなお菓子やお茶を差し入れてくれた。
「あんな優しい子がなぜ、こんな目に」
「先生、お茶を淹れました。お飲みください」
「ああ、ありがとう。ルル」
ルルの淹れてくれるお茶はいつも美味しい。
けれど今回限りは飲んだお茶の味すら分からなかった。
「先生と呼ばれていても、どれほどの知識があろうとも最後は患者の体力次第。
ままならないものだ」
そう漏らした呟きにルルは悲し気な笑みを浮かべる。
「何かあればお呼びください」
そう言ってルルは出て行ったので部屋には先生だけが残された。
与えられた部屋は自分が普段使っている部屋の何倍も大きいはずなのに空気による圧迫感が酷かった。
勿論、空気が人に圧迫感を与えることなんてない。
これはようは気持ちの問題なのだろう。
しかし、今やこの邸全体がそういった空気に包まれていた。
無理もない。
邸の主人の娘が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。
◇◇◇
「グロリアは何と言っている?」
グロリアのメイドが用意したお茶には毒が入っていた。
勿論、グロリアの物にも入っていたが、グロリアは一口の飲んではいなかった。
だが現状から見てグロリアが犯人だとしか考えられない。
尋問に当たったヴァンと立ち会ったジークは苦虫を噛み潰したような顔をした。
尋問がジークではなくヴァンが行ったのは感情のあまり何をするか自分でも自信がなかったジークとそれを危惧したヴァンの意見が一致した為だ。
「毒のことは知らないそうです。
メイドが自分達を殺す為にやったと」
「旦那様、グロリア様の部屋から毒の入った小瓶が見つかりました」
ルルが差し出した小瓶を伯爵は重い溜息と共に受け取った。
「この小瓶に関しても知らないの一点張りでした」
「そうか。メイドの方は?」
「侍女長が尋問をした結果、グロリア様の命令で行ったと」
ヴァンの報告に伯爵は皮肉気な笑みを浮かべる。
「貴族が自分の仕出かした悪事を使用人になすりつけることも、自分の身可愛さに使用人が主人の指示でやったと白状することも王道過ぎて笑えんな」
しかも殺そうとしたのは自分の姉なのだから。
「どうしますか、旦那様」
ジークの怒りに満ちた目が伯爵を見ていた。
元々ジークはグロリアのことがあまり好きではなかったのだ。
グロリアは何の努力もしていないくせに、必死に努力をしているセシルを何もできない人間だと、顔だけの人間だと思い込んでいるのだから当然だ。
「あの子に姉を害そうとする頭があるとは思えない。悲しいことにあの子はまだそこまで賢くはない。
それにこの毒だってあの子が手に入れられる物ではないだろう。
きっと裏で糸を引いている輩が居るはずだ。
まずは、そうだな。グロリアを開放してやれ。
全てはメイドの仕業でお前は巻き込まれた。下手をしていたら死んでいたかもしれない可哀想な被害者だというレッテルを貼ってな。
その上でジーク、グロリアを見張れ。きっとアイツは誰かと接触するはずだ」
「畏まりました」