悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン
番外編

良い人はやはり幸せにならなくっちゃ!(^^)!

「あれ、君はセシル嬢の所のルルだね」
 「ご無沙汰しております、クリス様」
 「お買い物?」
 「はい。セシル様に茶葉を買うように」
 「そうなんだ。だったら安くしておくよ。
 ここは僕の店だからね。
 もう買う茶葉の種類は決まった」
 「いいえ、まだ」
 「じゃあ、一緒に選ぼう」
 「はぁ」

 申し遅れました。
 私はセシル様に遣えているルルと申します。
 元はスラム街の生まれなのですが運よくセシル様に拾って頂き、今は侍女として働いています。

 私の隣で色々説明しながら茶葉を選んでくれているこの方はクリス様
 1年前までは正式なものではないけれどグロリア様の婚約者でした。
 正直言って、ちょっと苦手です。
 私は感情が乏しくラインネット家の使用人に「人形」と揶揄されます。
 そんな私に積極的に話しかける人なんてセシル様以外、いなかったの。
 クリス様は貴族なのに使用人である私に気安く話しかけてくる。
 とても不思議な方です。

 「これなんか、どうかな?
 このままだと苦いけど、一度中を掻き混ぜると甘くなるんだ」
 「変わったお茶ですね」
 「だろ」と、クリス様は子供のような顔で仰る。
 くすりと笑ってしまった。

 「ああ、今笑ったよね」
 「いいえ」
 「初めて見た、ルルの笑顔。
 なんかいいね。笑うと可愛い」
 「っ」

 この方は天然なのですね。
 というか、貴族の殿方はこういうことを簡単に言う習慣でもついているのでしょうか。
 慣れないので顔が熱い上に、胸がドキドキします。

 「では、これにします」
 「毎度あり」

 私はお茶を買い、急いで邸へ戻った。

 「お帰り、ルル。どうしたの?何かあった?」
 「ただいま戻りました、セシル様。?特に何もありません」
 「そう。でも」
 セシル様の手が私の額に触れる。
 「顔は赤いけど、熱はないみたいね」
 「あ、赤くなどありませんっ」
 「!?」
 つい、大声を出してしまった。
 セシル様もジーク様も驚いた顔をされている。

 「申し訳ありません、失礼します」

 とんだ失態だ。

◇◇◇

 また別の日もクリス様にあった。

 どうしてこうなっているのだろう?

 私は今、なぜかクリス様とお茶をしている。
 「ここのケーキが美味しいって評判なんだ。
 グエンの出しているお店なんだけどね」
 「そうなんですか」
 「うん、そう。でもね、1人で甘い物を食べに行くのって結構勇気が居るんだよね。
 ルルが居て良かった。ありがとうね」
 「いいえ、お役に立てたとなら幸いです」

 私は目の前に置かれたケーキを食べた。
 美味しい。

 「あら、クリスじゃない」
 「・・・・やぁ、ミリアーノ嬢」
 「?」

 誰でしょう。心なしかクリス様の顏が引きつっています。
 あのグロリア様の時でさえ笑顔を保っておられたので意外です。
 ってきり強靭な心臓の持ち主かしと思っていたので。

 クリス様にミリアーノと呼ばれて女性は私を品定めするかのように上から下まで見てからクスリと笑ってきました。感じの悪い女です。

 まぁ、グロリア様で慣れていますが。
 あの方がセシル様やジークの目がない所では散々、私のことをバカにしていましたら。

 『#使用人風情__・__#が、私を憐れんでいるんでしょ。
 ろくにベッドからも起き上がれない病弱で役立たずな娘だと』
 ふむ。「いや、あんた起き上がれるでしょうっ!」と突っ込まなかった私は凄いと思う。
 使用人風情とは全く。よく言ったものです。
 間違ってはいませんが。

 「ねぇ、あなた」

 ああ、いけない。ちょっと過去の回想に耽っていました。

 「はい、何でしょう」
 「どこの家の人?」
 「ミリアーノ嬢!僕の連れに失礼な真似をしないでくれる」
 「ああ、ごめんなさい。私はローレン子爵家の娘よ」
 「そうですか。私はラインネット伯爵家で侍女として働いています」
 「あは。あははは。そうよねぇ、可笑しいとは思ったのよ」
 何が可笑しいのか分かりませんが。
 よろしいのですか、ローレン子爵令嬢様。
 ここ、お店の中ですよ。そして、あなたは今結構注目されています。
 お気づきでないようですが。
 ご愁傷さまです。

 「可笑しいと思ったのよ。だって、侍女服を着ている令嬢がいるなんて」
 「はぁ」
 「ねぇ、そこ退いてくださらない。
 たかが使用人如きが貴族と同じ席に着こうなんて失礼ではありませんか」
 「失礼なのは君の方だよ、ミリアーノ嬢。
 彼女は僕の連れだ、君にバカにされる筋合いはない。
 それに貴族がそんなに偉いの?
 偉そうにしているけど子爵や男爵位の生活なんてほとんど変わらないからね」
 「なっ、何を言っていますの、クリス様。
 この女に誑かされて、頭が茹で上がっていますの!そのような」
 「喧しいっ!」

 グワーン

 うわぁ、痛そう。

 「グエン」

 グエン様は後ろからローレン子爵令嬢様の頭をフライパンで叩きました。
 あの、よろしいのでしょうか?
 グエン様は確か男爵位なのでは?こんなことをしてはマズいのでは?

 「何をなさいますの!」
 「黙れっ!店で騒ぐな!
 あと、平民をバカにしたような口を叩いているけどな、俺の店はその平民を的にした店だ。
 ここにいるのは全員、平民だ」
 そこで初めてローレン子爵令嬢様は自分が周りの人間から睨まれていることに気づいたのです。
 グロリア様もそうだったのですが、貴族の令嬢って結構鈍いんですかね?

 「覚えておきなさいよっ」と悪役じみたセリフを言ってローレン子爵令嬢は店から出て行きました。
 それを見たグエン様も何事もなかったかのようにフライパンを返しに厨房へ行ってしまいました。

 「ごめんね、ルル。不快な思いをさせてしまって」
 「いいえ、私のような使用人と一緒に居れば当然かと」
 「当然じゃないよ!ルルはとても素敵な女性だよ」
 「・・・・・・そ、それは、ありがとうございます」

 何でしょう、この方。
 私をドキドキで殺してしまいたいのでしょうか。

 「あ、あの、ルル」
 「はい」
 「さっき言ったように、子爵位も男爵位も平民と変わらないんだ。
 結婚とかもしなければいけないけど、無理に貴族とする必要はないんだ」
 「?そうなんですか。それは知りませんでした」
 「大抵は上流貴族との関係を持ちたいかったり、自分の家の利益になる家との繋がりを欲する為に貴族同士で結婚をするんだ。
 でも、僕の母は平民出身で、恋愛結婚なんだ」
 「それは、素敵ですね」
 「そうだね。ねぇ、ルル」
 「はい」
 「僕と結婚を前提にお付き合いしてください」
 「・・・・・・」
 待て、落ち着こう。取り敢えず、落ち着こう。
 深呼吸して。
 こういう時はお茶を一口飲むと言いとお嬢様が言っていた。

 うん、飲んだ。
 ・・・・・・・落ち着かない。
 体温が一気に急上昇した。
 何これ。高熱出して死にそう。

 「えっと、あの」
 「ダメ、かな?」

 きゅんと捨てられた子犬に見えました。

 「・・・・・・お願いします」

 気がつけばそう言ってしまっていた。

 パッと花が咲いたようにクリス様は笑った。

 「良かったじゃなぇか、坊ちゃん」
 実は周りも聞いていたようでお店の中が一気にお祝いモードだ。
 まぁ、近くでミリアーノ嬢があれだけ騒いだ後だから注目されていたのは仕方のないことだ。

 テクテクと厨房の奥から出て来たグエン様がホールのケーキを持って来てくれた。
 「おめでとう」
 「ありがとう、グエン」

 なんだか流されてしまった気もするけれどクリス様となら良い関係が築けそうなので問題はないだろう。
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