悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

学校での騒ぎ

「おはようございます、セシル様」
「おはようございます、アグネス様」

ここは学校の教室。
貴族の子供が通う場所だ。
「セシル様は今日、学校には最後までおられるのですか?」
「いいえ、残念ながら今日は午後から予定がありますの」
「まぁ。それは残念ですわ」

「おはようございます、セシル様。
先日は素晴らしいお茶会にご招待くださり、ありがとうございます。
やはり、セシル様はとても良いセンスを持っていらっしゃいますわね。
私も見習いたいですわ」
「おはようございます、リドル様。
先日は私のお茶会にご出席くださりありがとうございます。
今後とも良いお付き合いをしてもらいたいですわ」


「あら、氷姫が来ましたわ」
「ご存知。彼女、下町で男を侍らせていらっしゃるのですって」
「まぁ。何と下品な」

セシルが通り過ぎるとそうヒソヒソ有りもしない噂に興じる貴族達がいる。

氷姫とはセシルのことなのだ。
彼女は自分に寄って来る男に対して容赦はなく、また銀の髪とルビーの瞳。
その容姿で無表情で吐かれる毒舌には絶対零度、身も心も凍らせる破壊力あることからそう呼ぶものもいる。

彼女にはさまざまな噂があるが、その大半が彼女の美貌と彼女が・・・・。

「おはよう、セシル」
「おはようございます、殿下」
オルフェン・オラクル王太子殿下
金色の髪に蘭の瞳を持つこの国の王子だ。
セシルとオルフェンは幼馴染で仲が良い。
その嫉妬から様々な噂を貴族令嬢達は流すのだ。

「久しぶりだな。
忙しかったのか?」
「ええ。漸くひと段落したので学校に来たのですわ」
「そうか。そう言えば先程、グロリアも見たな」
「あら、珍しい。学校に来ているなんて」
「そうだな。
声はかけなかったが元気がなかったぞ」
「いつものことですわ」
「そうなんだが、それとは違う気がする」
「?」

オルフェンはよく人を見ている。
それも王族にとっては必要な資質なのかもしれないが。
あまり会わないグロリアの異変にも気づくのだから凄い。

私は気づかない。
だってあまり好きではないし、興味もないから。

「セシル様、お客様が来ていますわ」

私がオルフェンと話していたから恐縮しながらクラスメイトの子が声をかけてくれた。

視線を向けるとなぜかグロリアが来ていた。
グロリアはオドオドしながら私の元へ来た。
オルフェンは私のことを心配しながら体を退けてグロリアを通した。
それでも心配なのか側から離れようとはしなかった。

私も別に聞かれて困る話があるわけでもないので特に何も言わなかった。

「あれがセシル様の妹?」
「なんか暗いな」
「地味」

容赦のない周りの評価にグロリアの目に涙が溜まっていた。

本当にうざいな。
言っとくけど私が言わせたわけじゃないから。
ていうか、嫌なら来なければいいのに。

「珍しいわね、グロリア。
学校に来ていることも珍しいけれどあなたが私を訪ねて来るなんて」

私とグロリアは学校は同じでも通っている科が違う。
私は特進科でグロリアは一般科だ。

一般科は女性の場合は主に花嫁修行向けになっている。
男性の場合は計算や基本的な国の歴史や他国について学ぶ。

対して特進科は様々な専門を学べるので授業は全て選択制となっている。
通っているだけで単位が取れる一般科とは違い特進科には試験があり、勿論落第などもある。
専門的な知識を何処までも深く学べることができるがその代わりとても厳しい科となる。
割合的には男性の方が多いが女性も4割ぐらいはいる。

「あの制服って一般科よね?」
「セシル様の妹は一般科なのか。意外」

外野は興味津々でグロリアを見る。
当然だ。
ただでさえ厳しい科なのに、セシルはその中で首席だ。
因みにオルフェンは三位だ。

「あ、あの、お姉様にお話があって」
「何?」
「ここでは、その」
「学校でできない話をわざわざ違う校舎まで来てするの?
家でいいじゃない」
「でも、家だとお姉様、私と会ってくれない、から」
「グロリア、セシルは色々と忙しいんだ。
時間が取れないことを責めてはいけないよ」

オルフェンに軽く窘められて余計にグロリアの目に涙が溜まる。

「私だって体が強ければ」と小声で言っていたが小さすぎて誰の耳にも入らなかった。

「グロリア、そろそろ授業が始まるのだけれど。
用がないのなら帰ってくれるかしら?」
「っ」


「うわっ、さすが氷姫。
妹に対しても容赦ねぇな」
「妹さん。ビクビク怯えてますわ、お可哀相に」
可哀相と言いながら彼女の顔に哀れみはない。
寧ろ小動物が必死に肉食獣に歯向かっているような光景に見えて、面白がっている。

「・・・・んなに、そんなに私のことが嫌いなのですか?」
「はい?」

好きではないけれど、いや、かなりうざいとは思っていたけれど急に何を言いだすのだろう。
今の状況とどう関係しているのだろう。
全くもって不明だ。

「どうして、そんなに私のことを邪険に扱うのですかっ!
そりゃあ、私はお姉様のように美しくまなければ成績が良いわけでもありません。
でもそれは体が弱かったからで、お姉様と同じ条件だったら私だってお姉様よりももっと優秀にできていましたわ。
なのに、どうして邪険に扱うのですか?
私はお姉様にお話があると言っているのに、帰れだなんて酷すぎます」

あまりにも身勝手
あまりにも傲慢

ここが一般科ならみな、まだ目を瞑ってくらただろう。
だがここは実力主義の特進科だ。
家柄に関係なく落第することだってある。

自分が健康なら首席であるセシルよりも優秀。
それは彼らが一般科の生徒であるグロリアよりも劣ることを指している。

当然、その考えを享受できる者はこのクラスにはいない。
みんなの怒りがグロリアへ向かった。
さすがのオルフェンも信じられない目で見ている。
だがそのことにグロリアは気づかない。

「では結果を出してみたらどうです?
あなたの成績は一般科でも中の下。
その実力で私よりも上に立てると言うのならそれだけの結果を出しなさい」

「聞きました、あの方。
一般科なのに中の下ですって」
「それでよくセシル様の上に立てると言えたものだな」
「逆ですわ。それだけの#頭__オツム__#しかないから言えるのですわ。
だって理解する頭がないんですもの」
「ああ、成る程。
まさかあんなのがセシル様の妹とは」
「双子でもこうもできが違うものなんですのね」
「セシル様に同情するよ」

ここぞとばかりに周りはグロリアを攻撃する。
先程までセシルの悪口を言っていたものま連帯してグロリアを攻撃し始めた。
グロリアは心無い周りの言動に泣いてしまった。
だが助けるものは誰1人として居ない。
当然だ。
努力でここまで来ているのにそれを軽くあしらわれたのだから。
自分達の努力を侮辱したグロリアに同情する者などいないのだ。

彼女は耐えきれず泣きながら走って行ってしまった。
結局、彼女が何をしに来たのかセシルにも周りのみんなにも分からなかった。

「セシル、大丈夫か?」
「問題ありませんわ。
何を今更。
あの子が自分を卑下して私を悪役に見立てるなんていつものことではないですか」
「そうだけど、それが積み重なりすぎて、最後に彼女がとんでもないことをやらかしそうで俺は不安だよ」
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