こいつにだけは、負けたくないっ!
「うわぁぁあんっ‼︎」

暖かい春の陽射しが降り注ぐ朝。

リビングでは、お母さんは朝食の準備をしていた。


そんな中、あたしの甲高い声が響き渡る。

あたしは勢いよく階段を駆け下りた。

「なんで起こしてくれなかったのぉ‼︎」

半泣きのあたしに、お母さんはため息をつき、あきれ顔で言った。


「起こしたわよ、何度も。起きなかったあんたが悪い!」

「〜〜〜っ」

もー!お母さんと言い合いしてる場合じゃないっ!

早く支度しないと……‼︎


あたし、橘花翼(タチバナツバサ)。

今日から華の高校生ですっ‼︎


……なのにお母さんは、あたしが起きるまで起こしてくれなかったんだよ!


入学早々、遅刻とかありえないしっ!


「いただきまぁすっ!」

あたしはテーブルの上の、朝食に手をつけた。


……ん?あれ?なんか違和感。


「あっ、お母さん!湊は⁉︎」

あたしは食パンを頬張りながら聞く。


ぷっ……まさかあいつ、まだ起きてないんじゃないの⁉︎

あたしが腹の底で笑っていると、お母さんから信じられない言葉が飛んできた。


「湊?もうずいぶん前に出たけど?」


「は⁉︎」


あたしは思わず食パンを落としそうになった。

まじか!優雅に朝食食ってる場合じゃねぇ‼︎


あたしは即座に立ち上がり、諸々の支度を済ませ、スクバを持った。


「お母さんごめんっ!あいつの後追うわ!」


あたしは家を飛び出した。

も〜〜‼︎! あたしに黙って先行くとかありえないし、あいつ‼︎


「うぉぉお‼︎‼︎」


全速力で走った。

たまに行き交う近所の人に、すごい目で見られるけど、気にしないっ‼︎


今は湊に追いつくことが大事‼︎


……って、あれ……?


待てよ……?ここ、どこだ……⁇


キョロキョロ辺りを見回すけど、見覚えのない場所だった。


人ひとり見当たらない。

いやいやいや、ありえないでしょ……。


まさかそんな、ねぇ……?


「……」


あたし……迷子?


その瞬間、あたしはとてつもない不安に襲われた。

うそでしょ……。


やばい。どうしよう。


こうなったのも、全部ぜーんぶ湊のせいよっ‼︎


「はぁぁ……」


あたしの深いため息が、やたらと響く。

こんなとき、素敵な王子様が助けてくれたらなぁ〜。


いやまぁ、そんなこと、あるわけないけどね?


漫画の世界じゃあるまいし!


諦めて、湊に連絡しようとした、そのとき。



「あんた、清架高校の生徒?」



背後から、そんな声がした。

まさか……⁉︎


あたしはバッと勢いよく振り向く。


そこには、あたしと同じ、紺色の制服を身にまとった男子生徒が立っていた。


「かっこ……いぃ……」


あたしは思わず、そう呟いていた。


はっとし、口を覆う。


でも、だって……ほんとにかっこいい‼︎



すらっとした手足。

少し焼けている健康的な肌。

明るめな茶色の髪は、くせっ毛なのか、ピョンピョンはねていた。


全体的に、整っている顔。

いわゆる、イケメンというやつだ。



「えっ……あっ」


イケメンくんはあたしの呟きに、ほんのり頬をピンクに染める。


……かわいすぎか⁉︎

かっこよくてかわいいって最高かよ‼︎


「あっやべ!」


あたしがイケメンくんを凝視していると、イケメンくんは腕時計を見て慌てだした。


イケメンくんのその様子に、あたしは我にかえる。

そうだっ、遅刻しちゃう……‼︎

でも道わかんないっ‼︎


あたしがあわあわしていると、イケメンくんはあたしの手を取り、走り出した。

え⁉︎


「あんたも新入生か⁉︎ とりあえず急ぐぞ!」


「ちょっ、えぇぇ⁉︎」




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