雪の光




結局、私は会場に入った。


始まる時間のぎりぎりに入れば茜ちゃんも何も言えないだろうという汚い計算で。


棺の前には彗の遺影が置かれていた。


どう笑ったらいいか迷っているような表情だった。


私の知らない写真。


会場の職員が最後の挨拶をするように言った。


順番にみんなが顔を覗き込んでいく。


中には泣き崩れる人もいた。


彗は、たくさんの人に大事にされていた。


それはきっと本人でさえ生きている間に気付けなかった事実。


彗、すごいよ。


私が最後だった。


でも、茜ちゃんが言う。


「終わりました。

出棺してください」


「え、ですが……」


「いいえ、大丈夫です」


ざわざわする。


同情の目、好奇の目、理解出来ていない目、様々だ。


「……本当に、宜しいのですか……?」


「はい、お願いします」


「……では、これが最後のお別れです」


私は彗の本当の最後を見ることを許されなかった。


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