雪の光


もしも私が線路に飛び込もうとしなかったなら。


もしも彗に止められなかったなら。


もしも私のヴァイオリンを聴いていなかったなら。





もしも運良く私が死んでいたなら。


きっと私達は出会わなかった。


どんな小さなことでも欠けていたら、私達は出会わなかったのだ。


そんなことを彗が死んでから毎日思っていた。


眠れない夜も、部長に怒られた日も、友達と飲んだ日の帰り道も、ヴァイオリンを弾いた夜も、仕事が上手くいった日も、鍵を落とした日も、転んだ日も、どんな日も、考えないことがなかった。


「……寂しかったんだよ」


ぽつりと呟く。


でも、今はもう寂しくない。


何となく、彗も同じ月を見ているように思うのだ。


ただ星屑に変わっただけで、彗がいた証は残っているのだ。


これから先、眠れない夜が何度あるか分からない。


疲れて死にそうになることだってあるかもしれない。


< 155 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop