モモちゃんに溺れる
「今時間ある?」

そう言ったユキに連れられて、俺は田口に一言断ってから大学の中庭にあるベンチに彼女と二人で腰掛けていた。

途中、手持無沙汰なのもあって自販機で彼女にカフェオレ、俺はコーヒーを買って数分間はなにも話すことなく飲んでいた。

大学のミス、ミスターが並んで缶コーヒーを飲んでいるのは、やはり目立つみたいで道行く奴らや、遠目からも好機の目は絶えない。

ユキはとくに気にしていない。

慣れてるのか?

俺も、この顔のせいで慣れてないわけでもないけど、やっぱり居心地は悪い。

「あれって今年のコンテストの・・・」

「なんでなんで?」

「付き合ってるのかな?」

あちこちから、おもに女子の声でひそひそと聞こえてくる。

みんな好きだな。

人の色恋話ほど盛り上がる話題ってないもんな。

自分は傷つかないし、あれやこれと憶測するのは楽しいだろうし。

その話題に上がるのが、自分となったら話は別なんだろうけど。

俺は、ため息がでそうになるのをこらえて、ユキの様子をうかがった。

きっとモモちゃんのこと。

別れたのか、とか。そんなこと。

そもそも付き合ってないけど。

でも、なかなか切り出さない。

俺たちは、まともにしゃべったのもあの日が最初だし、元々面識ないし。

ユキも、この感じを見るにそんなに社交的な方でもないんだろ。

モモちゃんとはちがうな。


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