セレブ結婚の甘い落とし穴【完】
春の風がネイルサロンの扉が開く度に暖かく入ってくるのがとても心地よかった。
「よし、終わり」
私は片付けを素早く済ませ、帰宅する準備をしていた。
ブルブルブル
「翼?」
え?
違う?
誰?
知らない番号……
「もしもし」
私は勇気を出して、電話に出てみた。
「奏音?俺だよ」
聞き覚えのある、馴れ馴れしい声。
「玲於なの?なんで?」
「今、近くにいるんだけど、会わない?」
淡々と誘ってくる玲於。
「む、無理。今から翼に会うの…」
私は無性に焦った。
「なんて、もう店の前にいるもんね」
玲於は高らかに笑いながら、ガラス越しの私をじっと見つめた。
そして、飛びっきり爽やかな笑顔で、私に手を振った。
「ちょっと…」
私は電話を切り、荷物を持って外に出た。
私は玲於の元に駆け寄った。
「やめて、今日里穂来てたよ。浮気してるって心配してたよ」
「へぇーそうなんだ」
まるで他人事の玲於。
「家に連れて行ってくれないって言ってたよ。どうするの?」
「だって奏音ちゃんが、ダメだって言うから」
玲於は全く悪びれていない。
「もう、引っ越してよ。モデルなんだから、もっといいとこ住みなよ」
私は必死でなんとかしようとするが、玲於の態度を見ていると、なんの解決策も見当たらない。
「奏音ちゃん、じゃあ、俺と一緒に引っ越す?同棲しようよ」
は?
バカ?
何言ってんの?
私はこの人は頭のネジがどこか外れてると確信した。