月は紅、空は紫
「お待たせいたしました――」

 道元が一通りの話を終えると、清空に手渡す薬を準備していたやこが声を掛けてきた。
 清空と道元が何を話していたのかは、まるで聞こえてはいないようであった。

 道元の話を聞いて、やこ本人に気持ちを聞いてみるか、清空はそう思いもしたのだが、すんでのところで言葉を飲み込む。
 仮に、やこにもまだ話をしていなかったら?
 あくまでも第三者である清空が、迂闊に踏み込むべき話では無いような気がした。

 やこから薬を受け取り、清空は道元とこれ以上は話が出来ないと感じつつ店から出ようとすると、道元に呼び止められた。

「歳平さん、この薬も持ってお行きなさい。筋が張るときなんか良く効くから」

 その様子は、いつもの道元に戻っていた。
 きっと、何も言わなかった清空を見て、清空は自分の話を受け入れてくれたと判断したのであろう。
 そんな道元を見て、清空は一層複雑な気持ちに襲われた。

 だが、清空には自分が取るべき態度が見付からず、不器用に道元に向かって愛想笑いを返すしか出来ない。
 道元から包みを受け取り、無言のままで会釈だけをして店から出て来たのである。
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