月は紅、空は紫
 京の都は、平安の時代に遷都されてより魔都である。
 その名の通りに、平安を祈願して風水に基づいた都市設計がなされた。
 聖獣たる四神、つまり、青龍、朱雀、白虎、玄武を山川道澤の土地と対応させて、それぞれが揃う場所に都市を置いた、いわゆる『四神相応の地』である。

 それはつまり、霊的な安定を図ることにより政治における安定を図ったことによるものだった。
 だが、外部から悪霊が入らないようにしたということは――中から外に悪霊が出られないという事と同義であったのである。

 京の都には、何らかの要因で生まれてしまった邪念が悪霊となり、内より外に出て行くことも叶わず魑魅魍魎が跋扈する都市となった。
 その瘴気は、霊感の無いような人間でも肌が粟立つほどに大きく、古い文献には平安京の役人が夜道に脅えて犬の鳴き声を真似しながら歩いていたという記録が残るほどである。

 その悪霊と相対していたのが――陰陽師である。

 律令制下に於いて中務省の陰陽寮に属した官職で、陰陽五行の思想に基づいた陰陽道によって占筮及び地相などを行う方技として配置され、後には本来の律令規定を超えて占術、呪術、祭祀をつかさどるようになった。
 人間同士の犯罪には検非違使という役職が配置されていたのだが――『この世ならぬ者たち』を律していたのも陰陽師だった。
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