月は紅、空は紫
 暗闇が邪魔をして、敵と清空自身の距離は測れない。
 だが、踵を返した瞬間に斬られたということは――清空は現在、相手の間合いの中に居る、ということである。
 
――まさに『危地』と呼ぶに相応しい。

 相手は、肉に触れてしまえばそれをそのままサックリと引き裂いてしまう程の刃を持っていて、それに相対している清空といえば――丸腰である。
 『戦力』という部分で比較すれば彼我の戦力の差は火を見るよりも明らかであった。
 そうなれば、清空として取れる選択肢とは――『逃げる』ことなのだが、それにしたところで相手に機先を制されてしまい、正に文字通り『逃げ道を塞がれた』ような形になってしまっている。

 現在の清空に出来ることは『防戦』のみであった。
 相手の攻撃をかわし続け、逃げれる機会を待つ――これが丸腰の清空が取れる最善の策であった。

 袖口を斬り付けた初撃より、相手は再び沈黙を保っている。
 清空の出方を待っているのだろうか、風の吹きすさぶ音以外に物音を立てる者は何も無く、『嵐の前の静けさ』のような静寂が川原に流れている――。
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