月は紅、空は紫
――対峙は一瞬であった。

 空気を切り裂くような風鳴りが起こり、その音と同時に清空は勘だけを頼りに後方へと飛び退いた。
 後方に跳んだことも『敵は前から攻めてくる』という直感に従っただけであり、敵の姿を視認できていたわけではない。

 清空の目の前で、空気が半月型に裂けるような衝撃が走る――。

 それが見えたかどうか、清空でさえも認識できてはいなかったのだが、ほぼ同時のタイミングで清空は懐から取り出した扇子に『気』を込めて、目の前の何も無い空間に向かって一直線に振り下ろした。

――『ピシッ!』という何かを掠る音が、川原に乾いた響きを立てた。

(当たったか!?――)

 清空にとっても、イチかバチかの賭けであった。
 相手が目の前に攻めてくるかも分からない。
 避ける方向を間違えば、清空の身体は無事では済まなかったであろう。

 現に――扇子を持った清空の右手の甲からは血が流れ出ていた。
 避けたと思ったのだが、それでも避け切れないほどの斬撃だったのだ。
 清空の手を掠め、一瞬の後に鮮血が流れ出てくる――それほど鋭い攻撃である。

 しかし、傷を負ったのは清空だけでは無かった。
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