月は紅、空は紫
 清空が考える間にも、川原に充満している空気の緊張度はその密度を上げていた。
 どちらかが少しでも動きを見せれば――または、どちらから動かなくとも周囲の何かが動けば一触即発ともいえる空気である。
 清空も鎌鼬も――互いにそれを悟ってか、どちらからも動けずにいた。

 そして、お互いの力量は交錯した初撃の瞬間に理解されていた。
 生まれ持った武器を備えた鎌鼬に、『気』を通した扇子のみが武器である清空。
 戦況としては――やや清空に分が悪い。
 ただ、先ほどのように相手の虚を突ければ清空にもやりようがある。
 この状況が、互いの動きを猶のこと膠着させていた。

「ギ……ギ……エリ……ク…………ギギ……」

 膠着の間、鎌鼬がさらに何事かを呟いたのだが、今度は清空には聞き取れなかった。
 機先を制させないためにも、清空は扇子を片手に構えを取っている。

 肩の力を抜き、肩幅よりも少し狭く開いた脚は猫のようにやや内股になっている。
 これは、あらゆる武道に共通して存在する『猫脚』と呼ばれる立ち方である。
 四方八方よりの攻撃に対処できるように構えを取ると、自然とこの立ち方となる。

 勢い始まってしまった戦闘に、清空の身体は本来の職である『剣士』としての動きに変化していた――。
< 120 / 190 >

この作品をシェア

pagetop