月は紅、空は紫
 清空と鎌鼬が対峙を続ける桂川の川原。
 いつの間にか、吹き荒れていたはずの風さえもナリを潜め、傍らの草木でさえも押し黙ったように二人の対峙を見守っている。

――二人の対峙は、まるで永劫のように続くのではないかと思われた。

「ギ……ギ……ギ……」

 鳴き声なのか、それとも呼吸音なのか。
 鎌鼬の口からそんな音が漏れ出ている。
 清空に理解できるような言葉は出てきていない。

――ドクン、ドクンと早鐘を撞くような清空の心臓の音が鎌鼬の呼吸音に呼応するように清空の身体の内に響いている。

 深と静まり返った川原で、緊張感が高まっていく――。

 まるで張り詰めた糸のように、指先で触れただけで爆ぜて切れてしまいそうな程に空気が凍った。
 どちらがきっかけを作るのか――激突することは避けることも適わず、戦いの場が全て整ってしまった。
 まるで、その事を悟ったかのように――瞬間、紅い月が雲によって陰りを見せる――。

――二人が、弾かれるように互いに向けて飛び出した。
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