月は紅、空は紫
 元から清空と鎌鼬の間に開いていた間は五間ほどである。
 互いに、大きく一歩を踏み出せば、容易に互いの間合いに入ってしまう。
 故に、勝負は一瞬で終わる――と思われた。

「うわっ!!」

 清空が飛び出した瞬間に、『ドンッ』という大きな音と共に清空の身体が弾き飛ばされた。
 後方の、元居た場所よりもさらに後方に清空の身体はあっさりと投げ出されてしまう。
 あまりに虚を突かれた為に、清空には何が起こったのか理解できなかった。

 慌てて身を落とされた場所で片膝を着いて立ち上がろうとする。
 視線は、見失いかけた鎌鼬の居た場所に向いた――が、その時、清空は何が起こったのかを一拍遅れて理解した。

(――しまった!!)

 清空の視線の先には、もう一匹の鎌鼬が居た。
 今まで姿を現していなかった、三匹のうちの一匹が対峙の瞬間に清空を転ばしてきたのだ。
 まさに絶体絶命である。
 一匹でさえ苦戦するのが必至であった鎌鼬が――さらに増えたのである。
 しかも、攻撃を確実に補助する『転ばせる』役目を持った鎌鼬である。
 清空の戦いに、暗雲が立ち込める予感があった。
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