月は紅、空は紫
 清空と対峙している二匹の鎌鼬、その鎌鼬同士も睨み合いの様相を呈しているのだ。
 特に、清空を転ばした方の鎌鼬からは――殺気というものを感じない。
 これは清空の感覚が麻痺してしまったということではない、現に清空と戦っていた方の鎌鼬からは離れた距離にも関わらず殺気が感じられる。

(――なんだ? どういうことだ?)

 清空が緊張を保ちながらも、二匹の鎌鼬を観察するように見つめていると――清空を転ばした方の鎌鼬が口を開いた。

「ヤメロ……メジロ……」

 金属が擦れ合うような声で、もう一匹の鎌鼬にそう呼び掛ける。
 メジロと呼ばれた鎌鼬は、その声を受けて低い唸り声を上げた。

「ダ……マレ……!!」

 呼び掛けた鎌鼬に向かって、メジロはそう叫ぶなり川原を一気に下って行く。
 清空も、呼び掛けた方の鎌鼬も――両方が反応しきれずに、メジロは桂川の闇の中に消えて行く――。

「くっ……!!」
「マテッ!!」

 ようやく、清空の脳が状況を把握し、追い掛けようとすると同時にもう一匹の鎌鼬がメジロの後を追い掛けるように闇の中に消えた。
 その場には、取り残された清空と、二匹の鎌鼬が居なくなると同時に吹き始めた湿った風だけが草木を揺らしていた――。
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