月は紅、空は紫
 鎌鼬が居なくなった川原から、清空は早々に立ち去った。
 備えが無いままの見回りでは、いざという時に手も足も出ないと判断したためである。
 幸運にも鎌鼬との戦いは回避できたとはいえ――あのまま二匹の鎌鼬と相対したところで無事に済んだとはとても思えなかった。

 現に――困った事が一つ発生していた。

 鎌鼬と戦った川原を離れ、急ぎ足で長屋まで戻り手当てをしたのだが……血が止まらないのである。
 斬られた瞬間こそ、余りに鋭い切り口だったせいか血が噴き出すのが一拍遅れていた。
 しかし、一度血が流れ出すと鋭く斬られ過ぎたせいなのか、それとも鎌鼬に斬りつけられた傷特有のものなのか、傷は一向に塞がる気配を見せないのである。

 清空は陰陽師としての修行を修めている、その中には肉体の中に『気』を駆け巡らせる術もあり、それを利用することで常人より比べ物にならぬ程の速度で傷を治してしまうことも出来る……はずであるのに、鎌鼬によって傷付けられた手の甲から、流れ出る血が止まらない。
 包帯をいかに巻き付けておこうとも、後から後から血が滲み出して来るのである。

 出血の量自体は、傷が小さい為かそれほど多くは無い。
 故に命に別状は無いのであろうが、人に見られて説明に困る事この上ないものであった。

 そうこうして、傷の手当てをして、今後どのように鎌鼬どもと戦うのかを考えあぐねているうちに夜は明けてしまい、体力を回復させようとして寝床に入ろうとした清空を不意に襲ったのは――これまた悪い報せであった。
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