月は紅、空は紫
 御役所に着いて早々、清空は死体安置所に通された。
 やはり検分か――そう思いながら、清空は死体安置所に繋がる地下への階段を下って行った。
 そこで待っていたのは同心の中村と――今朝がた発見されたという遺体であった。

「おお、朝からすまぬな――」

 死体安置所に入った清空に、中村は相変わらずの苦虫を噛み潰したような表情でそう挨拶する。
 そんな中村に、軽く会釈をしながら清空はそちらに近付いて行く。

「――こちらですか?」

 そう言う清空に、黙ったまま頷く中村を確認してから、清空は死体に掛けられていた薄く白い布切れを捲った――。
 布の下の死体は、仁左衛門と同様に鋭い刃のようなもので斬り付けられた跡が多数に付いている。

(――やはり……『鎌鼬』か……)

 傷を確認して、清空は心の内だけで確信した。
 昨夜、清空が逃してしまった鎌鼬――二匹のうち、どちらかは分からないが、逃げた後に市中で人を襲ってしまったのだ。

 清空の内に、激しい後悔と自責の念が浮かぶ。
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