月は紅、空は紫
「できれば……仁科道場と古藤道場、この二つをお主の方からも探ってはもらえぬだろうか……?」
中村の声は、いつもの朗々としたものではなく、遠慮の気持ちが多分に入っているのだろうか、小さくやや掠れたような調子となっている。
その様子は、中村がいかに困り果ててしまっているかを清空に強く印象付ける。
作業用の小さな机に肘を付いて、片手を額に当てて渋い表情が崩れない。
よくよく観察してみれば、頬もこけてうっすらと頬骨も浮き出てしまっている。肌にも艶が無く、疲労の色が浮き出てしまっているようだった――。
恐らく、中村は役人としてではなく、個人として『仁左衛門殺し』に関して探っていたのではないだろうか。
不可解な事件であり、それが不可解な解決で終わってしまっている。
事件の根は絶えていない――そう判断した中村が、通常の執務に加えて、公権力では手の出せない状態になってしまった『仁左衛門殺し』の取り調べを独自に行っていたのではないか、ということは清空にも何となく想像が出来た。
「仁科道場と……古藤道場……ですか?」
中村の言葉を反復するように、清空はそれだけの返答をした。
他ならぬ中村からの頼みである、可能な限りは受けても良いであろうという心積りは清空の中にあった。
加えるに、この事件の真犯人が『妖』であるということが清空には分かっているのに、それを中村に教えてやることが出来ない――そんな良心の呵責が猶のこと、清空が中村の手伝いをしてやりたいと思う気持ちを上乗せさせていた。
中村の声は、いつもの朗々としたものではなく、遠慮の気持ちが多分に入っているのだろうか、小さくやや掠れたような調子となっている。
その様子は、中村がいかに困り果ててしまっているかを清空に強く印象付ける。
作業用の小さな机に肘を付いて、片手を額に当てて渋い表情が崩れない。
よくよく観察してみれば、頬もこけてうっすらと頬骨も浮き出てしまっている。肌にも艶が無く、疲労の色が浮き出てしまっているようだった――。
恐らく、中村は役人としてではなく、個人として『仁左衛門殺し』に関して探っていたのではないだろうか。
不可解な事件であり、それが不可解な解決で終わってしまっている。
事件の根は絶えていない――そう判断した中村が、通常の執務に加えて、公権力では手の出せない状態になってしまった『仁左衛門殺し』の取り調べを独自に行っていたのではないか、ということは清空にも何となく想像が出来た。
「仁科道場と……古藤道場……ですか?」
中村の言葉を反復するように、清空はそれだけの返答をした。
他ならぬ中村からの頼みである、可能な限りは受けても良いであろうという心積りは清空の中にあった。
加えるに、この事件の真犯人が『妖』であるということが清空には分かっているのに、それを中村に教えてやることが出来ない――そんな良心の呵責が猶のこと、清空が中村の手伝いをしてやりたいと思う気持ちを上乗せさせていた。