月は紅、空は紫
「ん? これは……?」

 村木は、清空に渡された物が自分の期待していた金子ではなく、得体の知れぬ薄汚れた一本の巻物であったことに露骨な不快感を顔にした。
 そんな村木の様子を意に介する事無く、清空は爽やかな笑顔で村木からの質問に答える。

「ええ、資格ということでしたので。これが我が身分の証明となるとは限りませんが」

 そう言いながら、身振りで渡した巻物を開くように村木に促す。
 清空のその様子が、村木には益々気に食わないのだが、かと言ってさらに露骨に賄賂を要求するような真似も出来ない。
 何とも――世間知らずな上に、面の皮が分厚い男だ、と心の中で清空に毒づきながら、促された通りに渡された巻物を縛っている紐を解いて、巻物の中身を開いた――。

 そこに書かれていたのは――印可認状である。

 印可というのは、平たく言えば『指導免許』である。
 剣術の、流派における習熟度合、とでも言い換えれば良いだろうか。
 流派によっても異なる部分ではあるのだが、剣術には各流派の技術を習得した証として伝授される『目録』というものがある。
 流派の当主、もしくはそれに順ずる者である師範などが実力を認めて、剣術における型や技を伝授されるに当たって目録に名前を記して行く。

 その習熟度は、『初目録、中目録、大目録皆伝』という名目や『初伝、目録、極意伝、免許、印可』といった名目などの各流派によって違う名前で示される。
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