月は紅、空は紫
 だとすれば――この訪問者は、前者に関する話があって清空の元を訪れたということになる。
 しかし、確かに清空は桂川の土手で鎌鼬と一戦を交えたが、どうしてこの訪問者がそれを知ってるのかが理解できない。

 清空は、自分が戦った相手が鎌鼬であると知っている。
 それは清空が持っている『使命』に関することなので当然である。
 しかし、それと清空が戦っていることを傍目から見て――果たして『普通の人』が理解できるとは到底思えないのだ。

 それなのに、この訪問者は『桂川の一件で――』と言ってきたのだ。
 あまりに不可解な訪問者に、清空の緊張の色はどんどん濃くなるばかりである。
 どうしたものか――そう考えたのだが、しばし戸越しに会話してみようかと考えた。

「桂川の一件とは?――」

 とりあえずは――しらばっくれて、相手から情報を聞き出すことに努めようとしてみる。
 だが、慎重な清空とは裏腹に、訪問者の答えは単刀直入なものであった。

「貴方が――『鎌鼬』と戦ったことです」

 この返答に、清空は益々驚かされることになった。
 この訪問者は――何故か清空と戦っていた相手が鎌鼬であると知っている。
 それは、清空の持っている常識とは離れた事であった。

「なぜ……それを!?」
 
 
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