月は紅、空は紫
「私に……貴方のお力を貸していただきたいのです」

 清空の言葉に対し、目の前に座る訪問者は唐突にそう切り出した。
 『桂川での一件についての話』をするはずであったが、いきなりこの言葉である。
 話が飛躍しすぎていて、清空もどう言葉を返していいのか分からなくなってしまった。

「え? いや……どういった話で?」

 そう返すのがやっとである。
 何とも、頼み事を多くされる昨今だな――などと、清空が心中で苦笑いを浮かべつつも、表面では訪問者の言葉の意図が掴めずにそれ以上の言葉を失ってしまっている。

 確かに、清空は桂川で鎌鼬と一戦交えている。
 普通の人間では分からないような戦いであったのに、この訪問者はその事を知っていて、かつ『力を貸してほしい』と話を切り出した。
 清空には、この訪問者が何者なのか、そして、この訪問者の正体を計りかねていた。

 困惑している清空の様子を見て、訪問者は鋭い目付きを少し『困ったな』と言わんばかりに歪めてみせた。
 それを見て、清空も同様に困った様子を表情でしてみせたのだが――訪問者はようやく決意を固めたように順を追った話を始める。
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