月は紅、空は紫
 イシヅキの訪問を終えて、ようやく眠りに就いた清空。
 翌朝に待ち構えていたのは――節々の痛みである。

「ああ、痛てて……」

 床に就いたままの姿勢で腕を伸ばしてみる。
 肩から背中にかけての筋肉が、軋むような音を体内に響かせる。
 簡単に言えば『筋肉痛』というものである。

 清空は普段より『動く』という事を意識している、眠れる時には最大限寝るようにしているが、それもいざという時に最大限に動けるようにという意図を持った行動である。
 歩くに当たっては体幹を意識し、外出するにしても早足で、なるべく重い荷物を持って移動する。
 そうする事で、いざ戦いに挑む際にも身体を自在に動かせるように鍛錬をしている。

 しかし、それらの鍛錬は『実戦』に使う身体の部分を日常的に鍛えている、ということなのだ。
 この朝、清空の身体を襲った筋肉痛は――剣術の稽古によって、普段は使用していない筋肉が酷使された事に対して、身体の持ち主に抗議の声を上げてきた、という訳である。

 筋を伸ばして、痛みの緩和を図ってみるのだが、生半の事で痛みは消えてくれそうもない。
 腕や背中の中心部に、まるで鉛を流し込まれたような重さが残る。
 予定では、今日は古藤道場を訪れるつもりなのだが、この身体の痛みでは満足に動ける自信が起きない清空であった。
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