月は紅、空は紫
 運良く、四条通りに店を出していた寿司の屋台にて清空である。
 現在ではやや廃れがちとなってしまったが、この時代では主流である押し寿司を片手に、それをパクつきながら四条通りを抜けて古藤道場へと向かう。

 寿司とは、元は魚と米を交互に敷いて、それを長期に渡り保存して乳酸菌によって醗酵させてから食べる、いわゆる『なれ寿司』が発祥である。
 乳酸菌によって分解されたアミノ酸による旨味が発生するメカニズムを、知識は無くとも経験によってかつての人々はそれを突き止め、食品として楽しんでいたのだろうか。
 その『なれ寿司』の乳酸醗酵を待たずに、もしくは待てずに米に酢をまぶして、手軽に『なれ寿司』と似た酸味を味合おうとしたものが現在に残る寿司の原型であると伝えられている。

 『なれ寿司』にせよ、『押し寿司』『握り寿司』、どれをとっても、その味が酸っぱいことから『酸し』=『すし』=『寿司』という名が付いたという説が有力である。

 元が保存食であり、買ってすぐに食べれるという手軽さから、この時代では屋台で販売されているファーストフードとしても人気を博していた。

 清空が鯖の棒寿司を食べ尽くす頃には、古藤道場はあと一間ほどの距離まで近付いていたのである。
< 187 / 190 >

この作品をシェア

pagetop