月は紅、空は紫
――月が紅く、空が紫に染まる夜には気を付けなさい。

 時は、徳川が統治し、世に泰平が訪れた江戸時代である。
 戦乱の無い世の中は平和に満ちているように見える。

 江戸を中心とした幕府があり、その他にも幾つかの大都市が発展している。
 有名なところで言えば、『天下の台所』と称された大坂。
 他にも、『加賀百万石』の名で知られる金沢藩や徳川御三家と称される尾張藩、紀州藩、水戸藩などが存在する。

 しかし、徳川家が幕府を置いている江戸を別格として、この時代に大都市と呼ぶに相応しい発展を遂げていた土地といえば――やはり、古来より『天子の住む地』という意味を冠し、しばしば国の中心としての役割を果たしてきた京であろう。

 この時代には、政治の中心は江戸へと移ってしまっているが、それでもなお幕府の西における拠点である二条城が築かれ、文化工芸の中心として日本では有数の繁栄を遂げていた。
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