月は紅、空は紫
 享保七年、九月に京の守護を担当していたのは東御役所である。
 また、この年には、大津奉行の職務を統合し、大津の支配も行っている。
 与力が二十騎、同心が五十人、東西それぞれの御役所に在籍する大所帯である。

 その東御役所に在籍する同心、中村宗右衛門が桂川のほとりで死体が発見されたという報を受けたのは、さらしを一反を買い求めるために呉服屋である但馬屋に居る時であった。

 同心の仕事の一つである町廻りをしていて、近くに立ち寄ったついでに呉服屋に寄ったわけである。
 品を確かめ、持ち帰るためにさらしを包んで貰っている間、出された茶をすすりながら世間話をしている時に――中村の部下でもある岡っ引きの小森政の輔が但馬屋に駆け込んで来た。

「な、中村のダンナはっ!?」

 息も切れ切れ、額に汗を浮かべながら肩で呼吸をしている。
 町民より何かの報を受け、慌てて町中の何処かで見廻りをしている中村を探していたのであろう。

「どうした?――」

 店の先ですすっていた茶の椀を盆の上に置いて、中村は落ち着いた口調で入口に立つ小森に尋ねた。
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